第12話 天使
「そんなわけで、戦力増やしといたよ」
Vサインを作るナハト。
「まさか協力者がステラさんだとは」
「やっぱりモルテもステラちゃんと知り合い?」
「そりゃそうですよ。俺勇者と旅してたし魔王とも会いますよ」
思わずマレクが口を挟む。
「待って!?勇者の目的って魔王を倒すことなんでしょ?魔王が平和主義ならなんで...」
「いい質問ですね。答えは簡単。勇者は魔族を殺す目的で神に作られた存在だからです。魔王が平和主義でも残虐だったとしても変わらないです」
「そんな...何が正義か分からなくなってきた...」
マレクが混乱するのも無理はない。勇者は人々が思い浮かべているような存在ではない。
「まあそこは自分で考えて答えを見つけることですね」
「そう...だね。ってあれ?魔族を殺すのが勇者の目的ならなんでモルテは一緒に旅できたの?」
(ほんとに勘が鋭い...厄介ですね...)
モルテは心の中で舌打ちする。
「...勇者のペットになったから俺は殺されませんでした」
「え?」
「よく身分が高い者が奴隷を連れて行ったりするのを見たことがあるでしょう?あれと同じですよ。隷属魔法で自分をペットにすれば勇者と一緒にいられると思って志願しました」
隷属魔法は無理矢理相手を従わせる際に使用するものであって、自ら志願することは通常ならありえない。
「そこまでして...」
「俺の話はもういいでしょ。俺忙しいんで」
話を切り上げて玄関の扉を開けるモルテ。
「どこ行くの?」
「散歩です」
(素直じゃないなあ)
ナハトには全てお見通しだ。
「強烈な神気を辿ってみれば...まさか氷神が地上にいるとはな」
当たりだ。モルテは内心でガッツポーズをする。モルテは深夜になると一人で神と戦っていた。自分の神の力を解き放てばその反応に気づいた刺客達が釣れるからだ。もはや勇者を助けるのに手段は選んでいられない。時間もない。
「そういうあなたは...天使ですか」
天使。それは神に仕える存在。モルテがひと目見て判別できたのはその見た目に特徴があるからだ。背中から純白の翼が生えている。神々しい見た目だ。
「そうだ。神界の反逆者め。ここで処分してくれる」
濃密なオーラを纏う天使。神に仕える存在、その実力は言うまでもない。光の槍を持って突撃してくる。
モルテは抜いた刀で槍を防ぎ、刀身を滑らせる。火花が散る。その勢いで強烈な足蹴をお見舞いする。しかし天使は羽を巧みに操り体を捻り回避してしまった。片足が浮いた状態のモルテ。
「隙ができたぞ」
「俺はそう思わないですけどね」
足の裏から氷の刃が生える。
「っ!!」
天使の機動力は凄まじくすんでのところで回避に成功する。勝ち誇ったような顔で体勢を立て直そうとする天使。しかしー
パンッ!
どこからともなく銃声が響き渡る。天使の腹を氷の弾丸が撃ち抜いていた。
「な...に...?」
「誘導されてるのに最後まで気づかなかったようで。助かりました」
天使は最後の力を振り絞って銃弾が撃ち込まれた方向を凝視する。だが天使の驚異的な視力を持ってしても銃は見当たらなかった。
(ふう...保険かけとかなかったら危なかったですね)
モルテは勇者との旅でありとあらゆる場所を巡った。そこでモルテはその場所に銃を配置して行った。銃のまま置いておくと魔力を消費してしまう。だが魔法陣であれば使う際魔力を送り込むことによって起動し、使用することができる。これによりモルテは常時あらゆる方向から狙撃が可能になっている。モルテの途轍もない時間での細かな努力による勝利だった。
「さて」
天使の体を氷で固めるモルテ。
「神界の行き方を教えてくれれば苦しまずに殺してあげますよ」
本当は勇者のことを聞きたかったがこちらの目的が神界にバレたら勇者がどうなるか分からない。よって勇者を探していることは隠さねばならない。
「だ...れが言う...か...」
息も絶え絶えの天使。だがモルテは容赦なく天使の羽を引きちぎる。
「あああああああ!!!」
激痛に声を上げる天使。
「10秒ごとに1枚毟ります。賢い選択をしてくれることを願ってますよ」
モルテは勇者の為なら手段を厭わない。
だって彼は勇者では、正義の味方ではないのだから。
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