レーベン編:過去⑥

「...?」

 柔らかい感触の床でレーベンは目覚める。体のあちこちが痛い。だが重要なのはそこではない。なぜ自分が生きている。その疑問はすぐさま解消されることになる。

「お目覚めですか?」

 頭上から声がする。状況を改めて見ると女の子の膝の上で寝ていたことに気づく。

「すまない!...ぐっ!!」

 勢いよく立ち上がり謝罪したが、その反動で体を痛める。

「重傷なのですからあまり動かないでくださいね?」

 微笑む少女。レーベンの勘だがただの子供でないことが分かる。

「あなたは一体...?そしてここはどこなんだ...?俺はなんで助かったんだ...?」

 矢継ぎ早に質問を投げつけるレーベン。少女は怒ることなく1つ1つ丁寧に答える。

「私の名前はステラ。ここは私の家です。私の回復魔法で何とか助けることができました」

「そうだったのか...ステラ、助けてくれてありがとう」

 深く頭を下げるレーベン。

「いいんですよ。助けられてよかったです」

 「だがいくつか疑問点が残る。俺は回復魔法で治るほどの体の状態じゃなかったはずだ。あなたは一体何者なんだ?」

「確かにあなたの体は死に限りなく近い状態でした。ですが私、これでも元魔王なので...」

 魔王。突拍子もない言葉にレーベンは面食らう。魔王といえば人間最大の脅威。絶対悪だ。そのはずだったのだが思っていた魔王と実際の魔王は全く違っていた。それを察したのかステラは捲し立てる。

「元ですよ、元!そもそも私は破壊の力など持ち合わせてはいません。回復魔法にはいささか自信はありますが...人間達に敵意などありませんよ」

 どうやらステラは人間とは仲良くしていきたかったのだが魔族たちはそれを快く思わなかったようだ。クーデターに遭い僻地に追いやられてしまったようだった。

「そ、そうか...助けてもらった以上あなたのことは信用している。その言葉、信じよう」

「ふふ。あなたは律儀な方ですね。ありがとうございます」

「しかしそれなら尚更なんで俺を助けたんだ?騎士団が近くにいたし狙われるのでは?」

「それは...罪滅ぼしです」

「罪?」

「はい...私の家では外の状況を観測することができます。あなた方兄妹のこともずっと見ていました。必要以上干渉しない主義ですのであなた方の苦労を分かっていて見過ごしました」

「ですがあなたが命の危機にある時、運命というものの残酷さを知ったのです。妹さんのためにあそこまで頑張ったレーベンさんの末路がこんな悲しいものではあってはならない。そう思ったら無我夢中であなたのことを助けに行ってしまいました...」

 人間たちからだけではなく魔族たちからも追われる身の彼女。人前に出ることは非常に危険なはずなのにそれを顧みずレーベンを助けた。

「ステラは仲間はいないのか?」

「昔はたくさんいたのですが...愛想を尽かされてしまいました...」

 苦笑するステラ。そんな中ステラに向かって跪くレーベン。

「俺を使ってくれ。あなたに救われた命、あなたのために使いたい。命がけで君を守ろう」

「え...え〜〜〜...」

 流石のステラも困惑してるようだ。だがレーベンのひたむきな誠意を感じると。

「分かりました。どっちみちあなたの体は定期的に治療を行わないと危険です。私の元にいた方がいいでしょうし...」

「感謝する、ステラ」

 こうして魔王と人間の奇妙な共同生活が始まったのである。

 

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