第2章

第11話 ステラ

 セイラの力はすぐに制御できるものではない。ゆっくり慣れていく手筈となった。それまでは情報と戦力を集めることにした。

 「ナハト。こちら側の戦力について心当たりは無いんですか?」

「あるけど下手に干渉すると未来変わる可能性があるから教えな〜い。今のところ順調だから安心していいよ」

「と、いうわけで!セイラちゃん!買い物に行こう!!」

「え!?」

「どういう流れですか」

「そうした方がいい気がするな〜〜〜」

 (干渉しないって言ったくせに...)

 不満げなモルテ。リスクを取ってまで得られるメリットが大きいのだろうか。


 ナハトとセイラは生活用品の買い出しをした。セイラが本格的にナハトたちと生活を共にするからだ。

「疲れたでしょ。飲み物買ってくるからそこで待ってて」

 セイラが待っていると、どこからか言い争う声が聞こえる。

 「見るからにお嬢様じゃねえか。金目のもの持ってんだろ?」

 小さな女の子が絡まれている。セイラは助けたかったが力でチンピラ達に叶うはずがない。すると女の子と目が合う。気まずい。女の子が突如大きな声を出す。

「お姉ちゃん!!迎えに来てくれたんだね!!」

 一斉にセイラの方を振り向くチンピラ達。その隙をついてチンピラ達の隙間を潜り抜ける女の子。身軽なものだ。セイラの手を掴んで走る。

「こっちです!!」



「お待たせ〜〜ってセイラちゃん...?」

 一人取り残されるナハト。

 

 されるがまま逃げるセイラ。

「はあ...はあ...疲れた...」

「巻き込んで本当にすみません...」

 女の子は申し訳無さそうにしている。そして年齢不相応の礼儀正しさだった。先程のは演技だったのだろう。

「気にしないで...お家どこ?送って行こうか?」

「それには及びません。そろそろでしょうか」

 そう言うとどこからともなく緑髪の男が現れる。男は全身に縫い目があり近寄りがたい雰囲気があった。

「はあ...ステラ。やっと見つけた。一人で行動するなといつも言っているだろう」

「ふふ、すみません。でもあなたが絶対に迎えに来てくれるって分かってましたから」

「え?どなた?知り合い?」

「まだ紹介してませんでしたね。私の護衛のレーベンです」

「護衛...?もしかしていいとこのお嬢様だったり...?」

「いえそんな大したものではないですよ」

「魔王ってだけです」

 沈黙。


「え...?」

 後ずさるセイラ。

「ステラ。説明するならちゃんとやらないと。怖がらせてるぞ」

「まあ!すみません!物騒な肩書ではありますが人間に仇なすつもりはないのでご安心を」

「ステラに戦う力はないから大丈夫だ」

「そう...なの?信じるね」

 微笑むステラ。

「ありがとうございます」


「いた〜〜!!セイラちゃん!!」

 ナハトが息を切らして向かって来る。

「ごめんなさい!ちょっと色々巻き込まれてて...」

「私が巻き込んだんです。どうか責めないであげてください」

「いや怒ってはないけど...ってステラちゃんじゃん!!」

「あら?ナハトさん。こんなところでお会いできるとは」

「ナハトさん、知り合いなの?」

「実質部下みたいなもんだよ。魔王と魔族だし」

「え...?ナハトさん魔族なの?」

「そういえば言ってなかったっけ。平和主義者の魔族だよ〜〜」

 (ステラちゃんといいナハトさんといい...魔族にも色んな方がいるんだね...)


 しばらくして。

「平和主義すぎて魔族達に追放された!?」

「はい...だから人間たちにも魔族たちにも追われていて...」

「本当はもっと寂れた所でひっそりと暮らしたかったんだがな...ステラはおてんばすぎて危ない目に遭ってばかりだ」

「そんなこと言って...レーベンがいつも助けてくれるじゃないですか」

「...」

 照れくさそうにしているレーベン。

「そういうレーベンくんは魔族じゃないよね?」

「ああ。俺は人間だ。ステラには恩義があって従っている」

「そうなんだ。色々あったんだね...」

「ところでお二人さん。取引しないかい」

「ステラちゃんは追われてるんだよね?戦力は多い方がいい。だから俺達が力を貸すよ。だからその代わり俺達が困ったときは力を貸してほしい」

「いいですよ」

「早いぞステラ。詳しく聞いてから返事しないと」

「そうだね。詳しく言うと、神と戦いたいんだ」

「俺達神に狙われてるんだ。だからそれに抗うために戦力が必要なんだよね」

「なるほど..わかりました。私の力がお役に立てるかは分かりませんが...」

「ほんと!?ありがと〜〜」

「ですがレーベンを戦わせたくありません...だって...」

「ステラ、今その話はいい。俺はステラについていくぞ」

「そうですか...絶対にレーベンに無茶をさせない、しないと約束できるのなら私達二人は協力いたします」

「おっけ。交渉成立だね」

(すんなり受け入れてくれてよかった...時間がない...早く戦力を集めないとあの未来になっちゃう...)

 ナハトは焦る心をひた隠しにした。その心中を理解する者は存在しない。彼は残酷な未来を何度も見てきた。だからこそ今度は。今度こそは。たとえ何を犠牲にしてでも。

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