ナハト編:悪・下

「あ...ぐっ...」

 苦悶するナハト。

「やれやれ。まさか僕の眷属を殺しちゃうなんてね〜〜〜君には失望したよナハト」

「まあいいや。君を殺してまた新しく眷属とか魔族とか作ればいいしね」

 死神はナハトの創造主の一柱だ。ナハトを殺すことのできる稀有な存在だった。

「...分かってたよ。最初から勝てないって」

 ナハトの体から鮮血が迸る。

 (へ〜〜死ぬのってこんな感じなんだ)

 いつもと違う明確な死の感覚。ナハトはそれを噛み締めていた。

「あ〜〜〜もう血でベトベトだよ...きたな...神界に帰って掃除...っ!?」

「こ...これは...!?ぐああああああああああああああ!!」

 突然死神が悶え苦しむ。

「これは神殺しの毒...!?血か!?」

 ナハトはこうなることを全て予見していた。死神に未来視能力はない。これは大きなアドバンテージだと考えた。だが圧倒的な実力差がある。そのためにナハトはフィロの元を事前に訪れていた。フィロは毒物に対して詳しい知識を持っている。そこでミディの保護を頼み、神に効く毒を調合してもらったのだ。その毒を全身に流し、自分が殺されるときそれを勢いよく飛ばして毒殺しようとした。少しずつ毒に体を慣らすことはやっていたがもちろんナハト自身もただで済むはずがない。この世のものとは思えないほどの苦痛を味わいながらもナハトは辛くも創造主に勝利した。

 死神の死を確認するとナハトは眠るようにその意識を落としていった。


「おい、まだ寝るなよ」

 そこには白衣を纏った男と。

「ナハト!!!!」

 自分が遠ざけていた、一番大切な存在がいた。

「ナハトは助かるのか!?」

「解毒薬は持ってるが傷が酷いな。こいつのスタミナ次第だ」

「ミディ...ど、うして...」

「お前殴られても分からないようだったからな!ちゃんと説明しに来たんだよ」

「だから死ぬな。いいな?」

「は..はは...参ったね...ミディには敵わないなあ...」

 ナハトは未来を視ずとも毒により自分が死ぬことを分かっていた。だからここまでは視ていなかった。完全に予想外だ。

 




 ナハトは一命を取り留めた。フィロは言動に問題はあるが凄腕の医者だったようだ。正確かつ迅速な治療のおかげでナハトは死に損なった。

「俺...生きてる...?」

 診療所のベッドで目覚めるナハト。

「やっと起きたな馬鹿者」

 フィロがやって来る。

「今回は特別サービスだ。次はないからな。また解剖されに来い。それと――」

「それ、寝ずにお前の看病してたからな。大目に見てやれ」

 それだけ言い残すとフィロはさっさと出て行ってしまった。フィロが指差した方向に目をやると――――

 ミディがぐっすり眠っていた。思わずナハトの口元が緩む。

「ふふ」

 ミディの寝顔を見ながら微笑むナハト。起こすのも悪いと思いしばらくこのままでいることにした。


 

「ふあっ!?ナハト!?」

 がばっと起き上がるミディ。

「起きていきなり言うことが俺?ふふふ」

「何笑ってんだよ...傷は平気か?」

「うん。フィロのおかげでだいぶ楽になってきたよ」

「良かった...じゃあ説教タイムだな!!」

 にこりと笑うミディ。

「え...?」

 流石のナハトも少し焦る。

「この際お前が無茶することはいい。これは昔かららしいからな。少しずつ直してもらうとして、だ。なんで俺を置いていったんだ?」

 ミディが放つ強烈な圧。ナハトですらたじろいでしまった。

「これがミディのための最善の方法で」

「最善かどうかは俺が決めるんだよ。とにかくだ。一度護衛を頼んでるんだ。この約束、破ったりしないよな?」

「でもそしたらまた神に狙われ」

「その時はお前が守ってくれるんだろ?」

 食い気味に迫るミディ。有無を言わさぬ迫力で思わず冷や汗をかくナハト。

「ハ、ハイ...」

「よろしい。それとナハト」

「なんでしょう...」

「ありがとな...」

「!ふふ...」

「笑うな」


 それから2人は色んな話をした。どうやらミディは神界でも問題になっているらしい。魔物を引き寄せるその体質。それは世の中に混乱を生みかねない。だからミディの側にいるナハトの創造主がミディを殺そうとした。ナハトを使って。

「ナハトって時間神と死神って奴らが作った存在なのか...?」

「そうそう。だから死ねないし未来も視えるんだ。今回のことも事前に視てたからなんとか対策練れたよ」

「未来視と不死身の力かぁ...つらいなあ」

「?不死身はこの前聞いたけど未来視もつらいと思うの?なんで?」

「だって殆どの人は魔物に殺されてるんだぞ。そうじゃないにしても人の死を見るのはつらいだろ」

「...ミディってほんとに人の気持ちを見透かすのが上手いよね」

 図星だった。未来視は常時発動している。今では眼帯をして見えないようにしているが、昔は力を制御できず人と顔を合わせるたびにその悲惨な末路を見る羽目になった。歩く度に周りに死体が蠢いてるようなものだ。常人には到底耐えられるものではない。

「それがミディのいいとこでもあるけど」

「そうか?」

 照れくさそうに笑うミディ。

「まあ...これからもよろしく頼むよ」

「こちらこそ」

 生きてるうちに彼ら二人が離れ離れになることはもうないだろう。

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