レーベン編:過去①

 レーベンは父子家庭で育った。母親のことは知らない。幼い頃から会ったこともなかった。そんなレーベンには妹がいた。名をオネットという。レーベンはオネットのことをとても大切に思っていた。

 父親は母親のことか、仕事のことかは分からないが日々子どもたちに当たり散らかしていた。

「うっ.....!」

「お兄ちゃん!!」

 兄の元へと駆け寄ろうとする。しかし彼女の前に父親が立ちはだかる。

「うるせえぞ!!!お前も殴られてえのか!!」

 彼女に拳が降りかかる。

「きゃああああああ!!!」

「オネット......!!ぐあっ!!!」咄嗟に妹の前に滑り込みその体で妹への脅威を受けとめる。

「邪魔すんじゃねえ!!」大量の拳が飛んでくる。

「うっ.....ぐっ......」妹に覆いかぶさり全ての攻撃を肩代わりする。

「お兄ちゃん.....!!だめ....だめだよ.....!!やめて.......!!」

 子供に耐えられる痛みではない。しかし、それでも彼はオネットの兄だ。妹を心配させることはできない。彼は精一杯の笑顔を作る。

「俺は....俺は大丈夫だから。心配するな。」

 微笑みながら震える手で妹の頭を撫でる。


 気が済んだのか疲れたのかは分からないが父が扉を乱暴に閉めて帰っていく。

「お兄ちゃん!!お兄ちゃん!!しっかりして!!」

「ああ......やっと行ったのか........」

 涙を流す妹を安心させるため、ほとんど動かない体をに鞭打って再びぎこちない笑顔を作る。

「オネットが無事で本当に良かっ.....た..........」

 気絶するレーベン。


 こんな日々が続いていた。2人は心身ともに限界だった。レーベンが守り続けているおかげでオネットに目立った怪我はない。だがそれが逆にオネットを追い込んでいた。オネットの笑顔を最近見なくなった。

 (オネットはもう限界だ...俺が何とかしないと...)


「オネット...よく聞くんだ。2人でここを出よう」

「逃げるの?上手くいくかな...ちょっと出かけただけですぐにバレちゃうのに...」

「大丈夫だ。俺が父さんと話し合いをしてみる。念のためオネットは押し入れに隠れていてくれ。話が終わったら迎えに来るから」

「絶対無事に帰ってきてね...」

「ああ...約束する」

 そう言ってオネットの頭を撫でる。


「レーベン。何の用だ...ぐっ!!!」

 父の足が斬り裂かれる。

「心臓を狙ったつもりだったが...まだ調整が難しいな」

 そこには浮遊した剣があった。これはレーベン固有の能力だ。妹を守りたい。妹に手を出すやつを許さない。何をしてでも妹だけは幸せにする。そのような覚悟を強く決めた瞬間レーベンに宿った能力だった。その力を妹のために迷いなく使う。その相手が肉親だったとしてもだ。

「テメェ!!!!!」

 父が殴りかかってくる。体格差ではレーベンに勝ち目がない。だがレーベンは剣を巧みに操り少しだが確実にダメージを与えていた。

「さよなら父さん」

 父の頸動脈を裂く。鮮血が部屋一面を染め上げる。

 (殺した、殺した。俺はもう真っ当な人間になれない)

 (でもいいんだ...オネットのためなら俺はどんなに汚れたって構わない)


 返り血を浴びた姿でオネットを迎えに行くわけにはいかない。事前に用意してあった着替えを身に纏いオネットの部屋に向かう。

「オネット」

「お兄ちゃん!!怪我ない?平気?」

 兄に抱きつくオネット。

「俺は大丈夫だ。それより、家を出ていいってさ。俺達もう自由だ」

「え...本当...?本当に...?」

 信じられないという顔で兄の顔を見つめるオネット。

「説得は大変だったけどなんとか認めてもらえたんだ。早く行こう」

 あの現場をオネットに見られるわけにはいかない。ボロが出る前にオネットを連れ出そうとするレーベン。オネットの手を引いて家を出る。オネットはされるがままに兄について行く。2人は晴れて自由の身になった。

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