第9話 炎神

 セイラはフォティア区でハイスに拾われた。

「ここがフォティア区...」

 マレクは興味深そうに周りを見渡している。

「マレクはトルバ区から出るの初めてなんでしたっけ?」

「うん。ここはトルバ区と違って暑いね...」

「火山地帯ですからね」

 一行はハイスの家へ向かうことにした。まだ残っているかは分からないが行方の手がかりがあるかもしれないと思ったからだ。

「あそこの角を曲がった先だよ!」

 駆け足気味に急ぐセイラ。自分が育った家があるのかどうか気が気でないのだろう。

 曲がり角を曲がったその先には。拳が迫っていた。

「え...?」

「っ!!」

 咄嗟にセイラを突き飛ばすナハト。魔族の肉体は強靭だ。拳の一発食らったところでびくともしない。

 はずだったのだが。ナハトの右腕が宙を舞う。

「!?」

 拳の勢いがあまりにも強く腕を貫いてしまった。只者ではない。ナハトとモルテは刺客への警戒度を上げる。

 曲がり角からは軍服を着た男が姿を現す。

「ナハトは他の人達を頼みます」

「おけ。みんな逃げるよ!」

 ナハトは腕を拾った後残りの者を無理矢理連れ出す。

「いいのかよ置いてって!」

 走りながらも心配そうにミディは後ろを確認している。

「いいから走って。足手まといはいない方がモルテも戦いやすいから」

「あの...私のせいで...本当にごめんなさい」

 俯きながら走るセイラ。

「あ〜!!気にしないで!!俺不死身でこういうのもすぐ治っちゃうから!!」

 乱暴に右腕をくっつけようとするが、うまくいかない。

「あれ?まあ後でいいや」

 ポケットに右腕を突っ込むナハト。セイラはショッキングな状況を目の当たりにして言葉が出ないでいる。

「モルテ一人で勝てるの?」

 冷静にマレクは質問する。

「無理だね」


「...ぐっ」

 力なく倒れるモルテ。相手の実力は想像以上だった。搦め手であればモルテの能力で無効化できるため格上ア相手でも善戦できる。だが相手は単純に身体能力が高い。それ故勝ち目はゼロに等しかった。能力を隠している可能性もあるがそもそも現状勝ち目がないのであろうがなかろうが関係はない。

 (せめて時間稼ぎしないと)

「なんでいきなり襲ってくるんですか?俺達はただここを通りかかっただけですよ」

「いやお前らが追手だろ!ここに来るやつは他にいない」

「あ〜〜なんかお互いに誤解してるような...一旦話し合いません?」

「それはお前を無力化してからだな」

 (話通じませんね...仕方ない...)

 モルテは相手に触れることで内側から凍らせる技を使おうとした。相手は近接攻撃を繰り出してくる。触れるチャンスは多い。

 (ここだ!!)

 軍服の男の肌に触れようとした瞬間――

「ストーーーーーップ!!!」

 魔法陣が二人の間を隔てる。すると慌てて青年がその場に倒れ込む。

「僕肉体派じゃないから...キツい..」

「アーディ逃げろ!追手だ」

「いや違うから。久しぶりだねモルテ」

「あ!!あの時の!」

「え?何?面識あんのお前ら?」

 軍服の男は混乱している。

「モルテは重要人物だよ。ラズル、手出しちゃだめ」

「...分かった。悪いな早とちりして」

「いやこっちボコボコにされてるんですよ。責任取ってくださいよ」

「う〜〜んそうだね。じゃあお詫びとして情報提供しよう」

「君達の探してるハイスという男について」

「!なぜそれを」

「まあ僕だからね。それで、彼は炎神だ」

「俺が見たことあるから間違いねえ」

 ラズルは誇らしそうに語る。

「ああ、ラズルはこう見えて神様なんだよ。君と同じでね」

 (この人は...どこまで知っているんだ...!?)

 流石のモルテにも動揺が走る。

「セイラはハイスから力の一部を貰っていてね、眷属になってるんだ」

 神は自分の力の一部を渡すことにより、その存在を眷属にできる。モルテは氷神によって作られたため自動的に眷属になっていた。

「だから彼女が自分の力を使いこなせれば主の気配ぐらいは辿れるんじゃない?」

「ちなみにここにあった家は消されたよ。最初から何もなかったみたいにね」

「...なるほど。ありがとうございます」



 モルテが仲間たちの元に帰った直後。

「炎神の痕跡辿ってるってことは追手かと思ったわ」

「まあそう思うのも無理はないよね。君が命がけで神界から逃した存在だ。必死にもなる」

「しかしあいつらが神達の相手になんのかねえ」

「なるよ」

「その根拠は?」

「僕が言ってるからね」

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