第8話 ハイス
セイラは身寄りがなかった。捨てられたのだ。雪の降りしきる中セイラは一人街の外れでしゃがみ込んでいた。寒さで手がかじかみ、赤くなっている。そこに青年が通りかかる。燃えるような赤い髪をしている。
「君一人?親は?」
「知らない。気づいたときから私は一人」
「そっか...おいで。大したもてなしはできないけど...」
青年はセイラを温かく迎え入れた。身なりを綺麗にし、食事を与え甲斐甲斐しく世話をしてくれた。どうしてここまでしてくれるのかと青年に聞いたことがある。青年は罪滅ぼしだと言って苦笑いしていた。意味がよく分からなかったが青年に悪意がないのを理解していたセイラはその好意に甘んじることにした。
「そういえば君、名前は何て言うんだい?」
「名前?ない。つけられる前に捨てられたから」
「そっか...じゃあ俺がつけてもいいかな?」
「ほんと?いいの?」
「もちろん!...そうだね、セイラはどうかな?」
「セイラ...うん。気に入った。ありがとう...えっと」
「俺はハイス。ハイスって呼んでね」
セイラは初めて人から大切にされるという経験をした。幸せだった。
だがその幸せはすぐに終わることになる。夜、セイラはハイスの家でくつろいでいた。そこに血相を変えたハイスが乱暴に扉を開ける。
「セイラ、逃げよう」
「急にどうしたのハイス」
「ごめん。説明してる時間がないんだ」
強引にセイラの手を引くハイス。二人は暗闇の中を駆ける。
「いたぞ!」
「追え!」
怒号が聞こえる。怖い。暗いことも相まってセイラは恐怖に怯える。そんな中、明かりがつく。ハイスが手から作り出した炎はセイラの心すらも照らしたようであった。
「お別れだ」
「巻き込んでしまって本当にごめん..ごめんね...君を守るためにはもうこうするしかないんだ」
「ハイス...?また一緒にいれるよね?」
ハイスは返事をしない。
「ごめんねセイラ。どうか君の人生に幸あらんことを」
「そして」
「どうか俺のことは忘れて」
そう言ってハイスは一人走り出す。炎で照らされた彼は格好の的だった。一人になったセイラは先程の出来事を振り返る。ハイスが炎を作り出した時、その欠片がセイラの中に入り込んでいた。それはとても温かかった。
どこからかハイスの声が聞こえる。そんな気がした。
その力は君に苦労をかけるだろう。でもいつかきっと君を助けてくれる存在と巡り会えるはずだ。それまでどうか、幸せに――――――
「お、とうさん...お父さん...」
セイラは大粒の涙を溢す。一度も父と呼ぶことができなかった。こうなる前に呼べばよかった。自分のことは忘れるように言われたが、忘れるわけがない。そう思っていた。刹那、セイラの記憶が炎のように燃えていく。ハイスはセイラを全力で守ろうとした。ハイスと関わりがある者は容赦なく消されるだろう。だから自分に関しての記憶をすべて消した。そうすれば狙われることもないだろうとハイスは考えたのだ。
セイラは再び一人ぼっちになった。
「どうしたの!?」
心配するナハト。セイラを宥めつつ、戻った記憶を共有し整理していく。
「...」
モルテは思うことがあるようで一人何かを考え込んでいる。
気持ちを落ち着かせたセイラは改めて姿勢を正し、ナハト達に向き直る。
「お願いします。ハイスを...お父さんを探してほしい。彼がどんな危険なことに巻き込まれてるか分からないから危険なのは分かってる。それでも私はもう一度会いたい」
頭を下げるセイラ。
「もちろんだよ」
即答するナハトにセイラの表情が明るくなる。
「ありがとう!!」
「いえいえ。ミディもいいよね?」
「まああんな話聞かされた後で見捨てられないしな...」
「とりあえずセイラちゃんの記憶を辿って行こうか」
「え俺達には聞かないんですか?」
不満そうなモルテ。
「君達居候じゃん。ここに住みたいなら手伝うのに拒否権ないよ」
「え〜〜助けてあげたのに」
「その代わりモルテの目的に手を貸すって約束でしょ?それとこれとは別だよ」
「ちぇ、分かりましたよ」
「僕は喜んで協力するよ!」
「マレクはいい子ちゃんですね」
「それ褒めてる?」
「ふふ」
じゃれ合いに近いやり取りを遠目に眺めていたセイラは自然と笑っていた。こんな自分にも居場所があるのだと思うことができた。するとナハトが近づいてくる。
「ここ来てから始めて笑ったね。やっぱり君は笑ってる顔が一番かわいいと思うよ」
「なっ!!」
顔を真っ赤にするセイラ。
「「「うわ〜〜...」」」
引く3人。
いまいち締まらない状況ではあったが5人による冒険が始まろうとしていた。
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