第3話 光神
地区と地区の間には魔界と呼ばれる場所が存在する。いや、魔界の中に地区があるというべきか。魔物の住処である魔界の中で大気中の魔力の質が良い空間に結界を張り人の集落を作った。それが地区である。中心地にあり行政を行うトルバ区、北に位置するフォティア区、東に位置するアウルム区、西に位置するヴァルト区、南に位置するアクア区がある。当然魔族であるモルテが区内にいれるはずもなく、2人は魔界で過ごしていた。
「それでモルテ、ここからどうするの?勇者様を助けるってどうやって?」
「そうですね...わかりません」
「はあ!?」
「だからあの人の力を借りましょう」
「誰のこと?」
「まあ腐れ縁の友人、のようなものです。ただここ数十年会ってないのでどこにいるのやら...まあなんとかなるでしょ」
数十年会っていない友人。その情報でモルテの言う相手は魔族なのだろうとマレクは推測する。
どこかへ電話をかけるモルテ。
「フィロ、あなた最近ナハトに会いましたか?」
電話の相手はフィロのようだ。
『俺は情報屋じゃないんだが?』
「まあまあ。報酬は上乗せしますので」
フィロはあちこちを移動して訳ありの患者の治療を行っている。それ故モルテは目的の人物も利用しているのではないかと踏んだのだ。
『...最近来ている。というか頻繁にな』
「へ〜戦いたがらないのに珍しいですね」
『妙な人間を連れていたな。そいつ関係だろ。ともかく今度来たら教える』
「助かります」
電話を切るモルテ。
「さて。連絡を待つ間に今後の方針を決めましょうか」
「まずマレク。あなたの素性は隠してもらいます。あなたを狙う勢力は多いでしょうから」
「分かった...」
「そして次が一番大事なのですが...あなたはどうしたいですか?」
「何が?」
「勇者の力の使い方です。俺がとやかく言う筋合いないんで。自分で決めてください」
しばし考えるマレク。この力は自分の身に余るものだと自覚している。だが何もしないという選択肢は最初からなかった。
「勇者様のようにみんなを助けたい...そして勇者様も助けたい!!」
「いいですね。俺はそうできるように手助けしましょう。勇者を助ける上で必要なことですから」
それからしばらくして。
「今日は野宿ですね」
「宿に泊まれないもんね...」
「今日はもう遅いので寝ましょう。見張っときます。俺は寝なくても平気なんで」
魔族は人間よりも休む時間が短い。
「分かった...」
木の幹にもたれかかって目を閉じるマレク。少し経つと疲労からかもう寝てしまったようだ。微かに寝息が聞こえる。それを見たモルテはマレクの周りに強固な結界を張る。
「そこで見てないで出てきたらどうですか?」
「...気づいていましたか」
現れたのは人だった。否、形は人の形をしてはいるが溢れ出るオーラが人ではないと確信させる。尋常ではないプレッシャーを放っている。
「やはりマレクと行動していて正解でした。こうして神をおびき出すことができましたからね」
「待ってください。確かに私は神ですがあなたと戦うつもりはありませんよ」
「というと?」
「あなたは今や氷神。同じ神同士戦う理由はありません」
「それもそうですね。でもマレクは?」
「ああ。その子供ですか。もちろん処分させていただきますよ」
モルテから強烈な殺気が放たれる。
「おや。その子供に肩入れするつもりですか?彼は我々を脅かす存在ですよ?」
「勝手に勇者を作っておいて自分たちの手に余ったら殺す?ずいぶん身勝手なんですね神って」
「...どうやら話し合いは無意味のようですね」
臨戦態勢に入る敵。
先手必勝。モルテは氷で大量の剣を作り相手に向かって射出する。氷神の権能を有したモルテの攻撃は更に威力が上がっている。しかし相手は無傷だった。光でできた剣が氷の剣を全て撃ち落としてしまった。
「光神...!!」
「御名答。私の速さについて来れますか?」
光神が消える。光の速さで移動し光の剣でモルテに斬りかかる。モルテは咄嗟に地面を蹴り間一髪回避する。しかし捉えきれられなかったのか右腕を深く斬り裂かれる。
「諦めなさい。その傷ではもはや満足に動けないでしょう」
モルテの腹部の傷が再び開き始める。それに利き腕を負傷してしまった。これでは勝ち目がない。だがそれで諦めるモルテではない。今度は氷の銃を大量に展開し一斉掃射を始める。
「それも効きませんよ...ッ!?」
光の剣で迎撃しようとした光神だったが、その剣が霧散してしまった。
(...やはり。俺の持つ勇者の力は神界では知られていないようですね)
一瞬で光神に肉薄するモルテ。その指先がわずかに光神に触れた時。
「なめるなっ!!」
光神が眩い光を全身から放出する。その圧にモルテは吹き飛ばされて行った。岩に勢いよくぶつかり吐血するモルテ。
「どんな手を使ったか知らないが...覚悟しろ。この光神様の前で生きて帰れると思うなよ!!」
「がふ...それはこっちのセリフです」
血を吐きながらも不敵に笑うモルテ。まるで勝利を確信しているようだ。
「ズタズタに切り裂いてやる...!!!死ね――」
光神がモルテを切り裂こうとしたその時。
光神の右腕が落ちる。
「!?なっ!」
突然のことに光神に動揺が走る。落ちた右腕を見ると氷で覆われていた。
「さっき触れたときか...!!」
「おっ!小物っぽいと思ってたけど以外と頭回るんですね」
煽るモルテ。
「貴様ァ...!!ガ...ァ...」
そこには美しい氷の彫像が誕生していた。
「邪魔です」
それも一瞬だったが。モルテの蹴りで彫像はただの氷の礫と化してしまった。モルテは生物の体内の水分を凍らせることができる。しかし大技のため消耗が激しいのと、直接対象に触れなければならない。使い所が難しい技だ。
「...はあ」
深いため息をつき、マレクの側に戻る。マレクは何事もなかったかのようにぐっすりと深い眠りに落ちていた。
(俺も休ま...な...ければ...)
限界を迎えたモルテの意識も深くまで落ちて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます