ナハト編:悪・上
ある町にて。ミディとナハトはそれぞれ別行動をしていた。用事が終わってナハトと合流しようとするミディ。するとナハトが誰かと会話しているようだった。人と関わるのがめんどくさそうなナハトが自分以外の人と話しているなんて珍しいとミディは思った。だが盗み聞きも悪いと思いその場を後にする。
「ミディお待たせ」
しばらくして。ミディのもとにナハトが帰ってきた。
「遅かったな。さっき見ちゃったんだけど...誰と話してたんだ?知り合い?」
「なんだ見てたんだ。声かけてくれても良かったのに」
「いや大事な話とかしてたら悪いだろ。盗み聞きも良くないし」
「ミディは本当に優しいね」
「そんなことないよ」
恥ずかしそうに頭を掻くミディ。そんなミディをよそにナハトは急に足を止める。
「だから死んでね」
「え?」
ミディの横をナハトの剣が通過する。ミディは剣圧に負けて吹き飛んでいった。
「ナハト...どうして...?」
「まさか今まで魔族を信用してたの?ほんとに甘いね」
「そんな...ずっと俺を騙してたのか...?」
「御名答。利用させてくれてありがとう」
そう言ってミディを剣で突き刺す。そこから赤い染みがミディの服を染めていく。ナハトと一緒にいた男が近くに寄ってくる。
「始末したか?魔力が多く集まる心臓は綺麗に残ってるんだろうな」
「もちろんだよ。死体は適当に処理しとくね」
ミディの体を持ち上げて運んでいくナハト。
そこには赤く染まった池があるのみだった。
「まさかお前がここまで冷酷だとはな。情でも移ってるものだと思っていたが」
「...」
無言で返すナハト。先程ミディを刺した剣についた血を払いながら話題を変える。
「これすごくない?押し込むと剣が引っ込んで血糊が出るんだよ。殺したフリにはぴったりだよね」
「何?」
男の背後でナハトの剣が煌めく。男はすんでのところで避けようとするが間に合わない。肩口から袈裟斬りにされる。傷口を抑えながら男が口を開く。
「馬鹿な...それはおもちゃの剣だったはずだ...」
「言ってなかった?俺剣さえ持てば何でも斬れるの。おもちゃの剣でもね」
何でも斬れるのは剣の能力ではない。ナハトの能力である。
「裏切るのか。魔族が何度もそんなことをしていたら居場所がなくなるぞ!?いいのか!?それに俺は死神様の眷属だぞ!?どうなってもいいのか!?」
傷が深いことを察した男がナハトを必死に説得する。
「いいよ。ミディの隣が俺の居場所だから」
そう言ってナハトは男に止めを刺した。
「ナハト!!!」
「ミディ。良かった生きてたね」
ミディは生きていた。ナハトが殺すフリをして気絶させ、その体を安全な場所に隠しておいた。おかげで今回ミディに危機が迫ることは無かった。が。
「歯食いしばれ!!」
ナハトを思いっきり殴りつけるミディ。まともに戦ったことのないミディのパンチはあまりにも弱々しいものだ。未来を視ずとも避けることは容易い。だがナハトは避けなかった。避ける資格が無いと思ったからだ。
「...ごめん。不本意とはいえ君を傷つけた」
「馬鹿!俺が言いたいのはそういうことじゃない!!悪役になってまで俺を守ろうとするな...もっと自分を大事にしろ!」
「...ミディ」
「なんだよ」
「ありがとう...そして」
「ごめん」
ミディの鳩尾を正確に殴るナハト。
「ミディ...なん...で...」
「君はこれで死んだことになった。魔物とかには追われるだろうけど神には狙われることもない。姿を隠して慎ましく過ごせば安全に生きられるよ」
「だから安全とは無縁の生活してる俺のことはもう忘れて」
「ばいばい」
「ナハ...ト...」
ミディは朦朧とした意識の中で辛うじてナハトの言葉を聞いていた。だがナハトが姿を消した瞬間に力尽きたのかミディは意識を失った。
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