第1話 夢

「じゃあモルテ。この世界のことは頼んだよ」

 無機質な声色ながらも親友との別れを惜しむ感情が伝わってくる。

「待っ........」

 止められないのを分かっていても止めたいと思ってしまう。

「勇者......!!」




「ゆっ...!!...またあの夢ですか...」

 モルテは悪夢から覚める。自分にとっては苦い記憶。忘れることのない脳裏にこびりついた記憶。

「...?」

 違和感に気づく。自分は氷神との戦いで死んだはずだ。なぜ自分は生きているのか。思考を巡らすモルテ。

 自分の体を冷静に分析して気づく。自分が氷神の権能を手に入れていることに。

 ここは神界に住む神々が統治する世界フィーニクス。この世界では神が死ぬと次に適性がある者に権能が移る。つまり次の神になるのだ。どういう因果かモルテが次の氷神に選ばれてしまった。それにより氷神によってかけられた呪いが解除されることはなかった。

 (俺はまた死に損なったんですね...)

 悔しさのあまり唇を強く噛むモルテ。しかし悔しがる時間はあまりにも短いものだった。何故なら彼には悔しがる暇などない。何よりも大事な使命があったからだ。

 (勇者の代わりに世界を守る...俺はその使命を果たすまで...)

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