氷の記憶と不滅の者

たなみた

第1章

プロローグ 決着

「がっ...」

 氷の刃が深々と男に突き刺さる。男は黒い髪に黒いスーツを身に纏っていた。顔の左半分の痛々しい火傷痕もあり不気味さに拍車をかけている。

「これでおしまいね、モルテ」

 スーツの男――モルテが相対するのは自身の創造主、氷神。氷神が作り出した無数の刃がモルテの体を切り刻もうとした瞬間――――

 その全てが消え失せた。

「!?」

 自身の眷属の想定外の挙動に一瞬氷神に動揺が走る。

 その隙をモルテが見逃すわけがなかった。氷神の腹部に剣が刺さり、鮮血を溢れさせている。

「...........」

 致命傷を負った氷神が口を開く。

「これは勇者の力ね...........まさかあなたに受け継がれていたとは...........」

 先程の攻撃を勇者の力で無効化したのだろうと聡明な氷神は結論づける。

「でもいいのかしら?私が死ねばあなたの不死の呪いは消えるのよ?その傷じゃあなたも助からないでしょう」

 モルテは死ぬたびに記憶の一部を消費して復活する呪いをかけられている。

「覚悟の上でやってるに決まってるでしょ......それに正面から戦って勝てるわけ無いって思ってたし」

「最初から死ぬつもりで........相打ち狙いだったわけね..........私の.......負け.......だわ......」

 すでに氷神の瞳からは光が失われている。

「はっ.......はっ.........」

 モルテはその場に倒れ込む。体からどんどん力が抜けていく。死ぬのは時間の問題だ。

(これでようやく死ねるのか.............)

 今まで数え切れないくらい死を体験してきた。その彼が本当の意味で死を迎えようとしていた。

(勇者............お前の願い...........叶えられなくて悪いな...........)

 彼の人生に後悔は山ほどある。満足な人生だったとは言えないだろう。

(でも........)

(でももう忘れなくて済むんだ..............)

 微かに微笑んだ後、彼の体は氷のように冷たくなり動かなくなった。

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