晴れる時も雨空なる時も
柚風路
1
雨が好きだ。春先の肌寒い雨も、真夏の勢いのある雨も、秋の涼しい雨も、冬の凍えるほど冷たい雨も。柔らかくぼやける景色や、それを彩る傘の群れもいい。雨の日は素敵な所がいっぱいで心が躍らない時などない。……と思いたいけど、一個だけある。心の躍らない雨の日が。
「あー……やっぱり降っちゃいましたね」
大きなガラス窓の向こう。白い糸のような雨が、さあさあと微かな音を立てている。いつもならこれも詩的な風景として楽しんでいたはずだが。
「すみません、お二人の大事な結婚式だっていうのに」
目の前には真っ白な衣装を着た、苦笑気味の二人。白い壁に埋め込まれた窓は華やかに装飾がされ、どこからどう見ても立派な結婚式場である。
「いえ!
「そうですよ。それに、6月が雨の降る季節だって承知で式の予定を立てたんですし」
ジューンブライドが夢でしたから、と柔らかく微笑む新婦さんにも頭が下がる思いがする。昨日までに天気予報をいつ何回見ても、朝から晩まで晴れの予報だったのに。
「そうですかね。僕、楽しみにしてる日はいつも雨が降っちゃって」
冗談めかして笑うと、苦笑した口角が少しほころぶ。
「すごい、そうなんですか?大変ですね」
「いえいえ……あ、そうだ!披露宴を計画していた雨天用の演出に切り替える件なんですが――」
そんな風に、いつものように。冗談だと思われた話を流して打ち合わせに入る。もう十数回目だから、そんな流れにも慣れた。
運動会も、遠足も、初デートも。楽しみにしている日にはいつも雨が降った。今まではそれが嬉しかったし、自分は運がいいと思っていた。仕事に差し支えるまでは。
雨守安司、ウエディングプランナー。自分が担当した披露宴の日、いつも朝から雨が降る。
晴れる時も雨空なる時も 柚風路 @yuzukaze_novel
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