第22話
ディオたちは魔大樹の道までやってきた。
大きな大木にぽっかりと空いた穴。その奥に広がる闇はどこか不気味だった。
「魔物が大量に発生している」という事前情報があるからだろうか、彼らの中には緊張感が漂っている。
「まるで何かにずっと見られているようだぜ……そう思うだけかもしれないけどよ」
銀狼のトムが額に汗を流しながら言った。彼が臆病なわけではなく、その場にいる全員が同じような気持ちだった。
「念のため周囲にも気を配っておいてほしい。囲まれているなんてことはないだろうが、数体が付近に潜んでいても不思議ではない」
とディオが指示を出す。
既に村が一つ襲われているため、アリがダンジョンの外に出ているのは明白。
この付近にはまだ村がいくつかあり、ダンジョンを出た魔物達がその村を襲う可能性もある。
ディオがこのダンジョンに町にいる他の駆け出し探索者達を連れてこなかったのは「混乱をきたす」と言う理由の他にももう一つあった。
それは付近の村々の警備である。
村の人達は既にドルミィに避難しているらしいが、住む場所が無くなっては困るだろう。
駆け出し探索者達にはギルドから依頼をする形で、ドルミィの町やその周辺の村々の警備についてもらっているのだ。
ディオは魔大樹の道の入り口前でしゃがみ荷物からガサガサと何かを取り出す。
「それは?」
アクエルが尋ねる。
ディオの「考え」の一つである。
ドルミィの町でディオが新たに入手した魔法具。
昆虫系の魔物に効く殺虫剤のようなものだ。
ただ、魔物を倒せるほど効果は高くなく、精々動きを鈍らせる程度のもの。
ディオはそれを入り口の前に起き、作動させた。
魔法具からもくもくと煙がたち始める。
その煙が昆虫系の魔物に効果をきたすらしい。
ディオはドーマ地下迷窟で入手した「竜の短剣」を取り出すと、その短剣の力でダンジョンの中に風を送る。
煙は風に乗ってダンジョンの奥まで進んでいく。
「元々これで中の魔物の動きを鈍らせ、突破するつもりだった。ただ、トルネイ氏を連れてきてくれて助かった」
とディオが言う。
事前に打ち合わせた通りにトルネイはもう魔法を使い始めていた。
彼女が使えるのは昆虫系の魔物に効く毒だとか、感覚を狂わせる類の魔法である。
探索者になってから挑んだ最初のダンジョンで昆虫系の魔物に苦い思いをさせられた彼女はその思いをバネに勉強し、昆虫系の魔物に特化した魔法使いとなった。
トルネイは魔法をディオの短剣の風に乗せて、魔法具の煙と同じようにダンジョンの奥へと流していく。
魔物の神経に作用する特別な毒で、殺傷能力は皆無だがより遠くまで広がるように工夫されている。
その効果は「魔物の動きを一時的に止めることができる」というディオの魔法具の完全に上位互換のようなものだった。
「よし、一先ず下準備は終わった。行くぞ」
魔法具の煙がきれた頃合いでディオ達は魔大樹の道の内部に入っていった。
「懐かしいですね。昔よくここに来ました」
内部に入ると周囲に目を配りながらアクエルが言った。
銀狼は数年前にギービナの町で結成された探索者パーティーである。
駆け出しとして経験を積み、ギービナを旅だった彼らは他の探索者たちの例に漏れずにこのドルミィの町にも訪れた。
その時にこの魔大樹の道にも何度か挑んでいたため、その内部の道については詳しい。
「もう少し進めば最初の別れ道のはずです」
アクエルが先導する。
入り口から最初の別れ道にたどり着くまで彼らはアリの魔物には出会わなかった。
「本当に大量にいるのか? そんな片鱗まったくねぇけどよ」
「でも、何か良くない気配をずっと感じるニャ。全身に鳥肌が立つような不思議な感じ」
とトムが言い、猫人族のミーニャがそれに返す。
種族柄、彼女は五感が人間族よりもかなり鋭い。
その耳は遠くの音を敏感に察知するし、目は暗闇でも十分に働く。
鼻もよく、手先の器用さまで兼ね備えている。
その中でも彼女がもっとも発達している感覚は気配等を察知する第六感だった。
その勘の良さは仲間も認めるところで、今まで何度も窮地をミーニャのその感覚に救われている。
そのミーニャの第六感が告げている。
「このダンジョンはやばい」と。
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