第23話


別れ道までたどり着くとディオ達は他の探索者が選択肢ない道……行き止まりの方へと進む。


程なくして洞窟を塞ぐ壁が出現した。


ディオは実際にその洞窟に触ってみて、壁に耳を押し当てて見て、調査をする。


「穴はないな。崩れたのはここではない。ただ、奥にはやはり空道が続いている。もともと別れていた道をこの壁が塞いでいるのだ」


調べた結果わかったことをディオは皆に共有した。

これまた町でディオが見つけた魔法具、「派撃」と呼ばれる短い棒のようなものはこの壁を調べるのに大いに役に立った。


派撃は殴ったものに振動の波を与えることができる。

それ自体に大した攻撃力はないのだが、壁に耳を押し当ててその波を感じることで壁の向こう側など目に見えない場所をある程度調べることができる。


ディオの時代にもこの派撃と似たような魔法具は存在したが、彼の知るものよりも使いやすさやその性能は向上しているような気がした。


町で売られている魔法具はダンジョンからの産出品の他に魔石から人工的に作られる物も含む。


その性能はダンジョン産の物に比べると「あくまで探索者の行動を補助する」程度のものなのだが、その技術自体は千年の間に大きく進歩しているようだ。


ディオは「壁が道を塞いでいる」という言葉の中にあえて「誰かが意図的に」という言葉を加えなかった。


このダンジョンは元々枝分かれを繰り返した「アリの巣」のような構造だったのだろう。


それがまるで一本道のようになっているということは「別れ道」は全てディオの目の前の壁と同じように片方が潰されているはず。


自然にそうなったとは到底考えられなかった。


「よし、次に行くぞ」


ディオはそう言って来た道を引き返し、それに他のものも続く。


彼らが探しているのは最初にこのダンジョンの異変に気がついた駆け出し探索者のミッドが聞いたという「何かが崩れる音」の正体である。


ディオの予想ではそれは塞がれていた壁が崩れた時の音。


なぜ崩れたのかと考えれば大量に発生したアリが長い時間をかけて掘り進めたからだろう。


ディオはその崩れた壁の奥に大量の魔物が潜んでいると考え、その道の奥がダンジョンの最深部に繋がっている可能性が高いと考えていた。


ダンジョンからの帰り道に襲われたミッド達の話から推察するに崩れた壁はダンジョンの奥の方に存在するのだろう。


だが、他にも崩れている場所があるかもしれないため、念には念を入れてディオは別れ道の行き止まりの方を一つずつ調べることにしたのだ。


二つ目の別れ道を目指すにあたり、少しずつアリの魔物が姿を現し始めた。


ただ、入り口でディオの使った魔法具とトルネイの魔法がしっかりと作用しているようでアリはディオ達の姿を見ても微動だにしない。


動かないアリ達の首をアクエルが剣で落としていく。


アリが動かないおかげで余分な戦闘をしなくて済むため、一行は順調にダンジョンを進んでいく。


別れ道が五つ目に差し掛かった頃合いでアリに変化が起きた。


まだのっそりと動きが鈍いもののディオ達を見て威嚇するように顎をカチカチと鳴らしている。


「効果が切れてきましたか?」


その首を落としながらアクエルが言う。

ディオの魔法具の効果が時間は大体一時間かそこら。トルネイの魔法も同様である。


さらに、洞窟の奥は進むにつれて当然毒の効き目は薄くなっていく。


竜の短剣から出る風は毒を運ぶのにとても便利だが、さすがに入り口からダンジョンの奥の方まで届くわけではない。


そろそろ頃合いか、と判断してディオはその場で再び殺虫剤の魔法具を炊いた。トルネイと二人で入り口でしたことを繰り返す。


「その魔法具、正直魔物の動きを少し遅くするだけであまり有用ではないと思っていました」


作業を見守りつつ、アクエルが言う。


「これ単体ではそうだろう。元々ここまで順調に進めるとは思っていなかった。トルネイ氏の魔法の力が大きい」


とディオが答えるとトルネイは少し恥ずかしそうにしている。


「私の魔法も万能ではないんです。昆虫系でも全く効かないタイプもいますし、同じ種類の魔物でも個体によって効き具合が違う場合もありますから。ここのアリ達にこんなに効くとは思ってませんでした」


「恐らくだが、この魔法具とトルネイ氏の魔法が重なり合い、相乗的に効果が現れているのだと思う。俺の時代でも魔法具と魔法の効果が重複している場合、その効果が跳ね上がるというケースは何回かあった」


ディオたちのその会話をリリアは少し後方でしゃがみながらメモに記していた。


探索の記録……というわけではなくディオの発言を一言一句記憶しておくために。


話を聞きながらリリアは少し考えていた。

これまでのディオの話を思い起こしてみると、リリアには知らないことが多過ぎる。


最初は「自分が駆け出しだから知らないのだ」と思っていた。しかし、銀狼のメンバーやトルネイの様子を見るにディオの語る千年前の世界の話は彼らにとっても初耳なことが多いようだった。


「攻略したらダンジョンが消える」という事実がリリア達に伝わっていなかったようにディオのいた時代の探索者の常識が後世に伝わっていない。


「長い年月の中で失われていく情報というのは確かにあるのだろうがそれにしても不自然なほどに多過ぎる」とリリアは思うのだった。

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