第21話


「銀狼」のメンバーは全部で四人だった。

リーダーであり、魔物から仲間を守る壁役を担うアクエル。


鋭い五感と軽快な身のこなしで罠の解除や遊撃を得意とする猫人族の女性ミーニャ。


弓を得意とし遠距離からの攻撃に長けた人族の青年トム。


そして簡単な強化の魔法と回復の魔法を使える魔女のエアリアである。


「それからもう一人。『銀狼』のメンバーではないのですが挑むのが虫系の魔物のいる魔大樹の道と聞いて彼女にも協力を仰ぎました」


そう言ってアクエルが紹介したのは小柄で細身、茶髪を三つ編みにしてメガネをかけた少女である。


「トルネイ・ラクーンです。よろしくお願いします」


丁寧な口調で頭を下げる彼女にディオはおとなしそうな印象を受ける。

雰囲気がリリアに少し似ていた。


「彼女は虫系の魔物に対して有効な魔法を使える魔女なんです。攻略を確実なものにするために知り合いの探索者パーティーから来てもらっています」


とアクエルは説明した。彼女は普段、「緋色の杖」という女性だけの探索者パーティーに在籍しているのだが、今回のギルドからの依頼を受けてアクエルが共に戦ってくれるように頼んだらしい。


本当であればその「緋色の杖」もドルミィの町に一緒に来て欲しかったが、運の悪いことに彼女たちには別の依頼が入ってしまっていた。


そちらのダンジョンに虫系の魔物は出ないので、「せめてトルネイだけはこちらに」という話になったようだ。


ディオの経験上、「魔物侵攻」の最終フェーズである「ダンジョンから魔物の大量発生」が起こるのは「魔物がダンジョンの外に出て人々を遅い始める」フェーズからおよそ一週間ほどの余裕がある。


ただ、これは通常のダンジョンで魔物が倒されなかった場合の時間経過である。


ディオの予想通り、魔大樹の道で長い間ずっと魔物が増殖を繰り返していたのだとしたらダンジョン内には既に大量の魔物が生息していて猶予はほとんどないのではないかと思えた。


銀狼のメンバーとトルネイはまだ町についたばかりだったが、あまり休んでもいられない。


顔合わせが済むとすぐに作戦会議が始まった。


「今回は俺とリリア。それから銀狼とトルネイ氏の合計七名でダンジョンに挑む。内部の状況が不明なため、指揮は経験のある俺が担う。急に現れた余所者に指図されるのは釈迦かもしれないが、町のために理解してもらいたい」


ギルドの二階、マートンの部屋に皆が集まるとディオが説明を始める。

銀狼のメンバーもトルネイも特に不満はなさそうで、静かにその話を聞いていた。


リリアは探索者たちが自分も行くことに反対するのではないかと思ったが、特にそんな意見は出なかった。


彼らもディオと同じように「新人に経験を積ませてあげたい」と考えているわけではなく、単純にどうでもいいのだ。


リリアが共に来たとして、もし彼女が足を引っ張ろうともそれをわざわざ助けるつもりもない。


薄情に見える気もするが、「ダンジョンに入るのは自分の責任。そこで命を落とそうとも悪いのは自分である」という考え方は探索者同士の暗黙の了解だった。


ただ、トルネイだけは心配そうにリリアのことをちらちらと見ていた。


「中にはアリの魔物がうじゃうじゃいるんだろう? 流石に人数が少なすぎると思うが、この町の探索者に協力してもらわないのか?」


弓使いのトムがディオに尋ねる。

敵が大勢ならばこちらも大勢で挑むべきではないかということだ。


「駆け出し」だけでは歯が立たなくとも銀狼とトルネイがいれば戦いの主軸は作れる。


そうなれば「駆け出し」でもサポートくらいはできるだろうと思っての発言だ。


ただ、ディオはこの提案を却下した。


経験の少ない「駆け出し」を大人数連れて行くのは現場に混乱を生み出してしまうリスクがあるため避けたかった。


「あの、そちらの彼女……リリアさんも『駆け出し』ですよね? 彼女はいいのですか?」


ここでトルネイが質問した。

その質問はリリアの身を案じた善意からのものだった。


銀狼のメンバーは誰もリリアを気にしてはいなかったが彼女だけは違ったらしい。


ディオはリリアを連れて行く理由を説明した。

探索者として一人前になるように面倒を見るというだけでなく、先程はリリアにも話さなかったもう一つの理由も含めて。


「悪く受け取らないで貰いたいが、ここにいるメンバーは俺からしたら全員知らないものばかりだ。そんな中で、数日の付き合いではあるが俺は彼女に信頼を抱いている。共に連れて行くのはそれが理由でもある」


その言葉にその場にいたリリア以外のメンバーが全員反応を示す。


つまるところディオが言っているのは「お前達のことは完全には信用できないから、信用できるリリアを一緒に連れて行く」と言っているのだ。


それは失礼な物言いではあったが、その言葉に憤慨する者はいなかった。


探索者という職業はダンジョン内の宝を求めて動くという性質上、「裏切り」が起こるのがそう珍しい話ではない。


誰だって信用できる者と行動を共にしたいと思うのは全員が理解していたのだ。


「なるほど……ただ、問題があるとすればやはり人数差かと。数体程度であればわけはないですが、囲まれればさすがに苦戦を強いられる場面も出てくるでしょう。そこはどうします?」


アクエルが尋ねる。

現状出ている情報を掛け合わせると魔大樹の道には数千……下手をすれば数万の魔物が潜んでいてもおかしくはない。


それをたった七人で攻略するのは現実的ではない。


それに関してディオは短く


「考えがある」


とだけ語った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る