第13話
「こういう奴らはいつの時代にもいるんだな」
燃やされて気絶してしまった盗賊たちを縛り上げたあと、ディオが言った。
捕らえた盗賊たちをそのままにしておくことはできず、仕方なく馬車に全員を乗せている。
その代わりにリリアとディオは降りて馬車の横を歩くことになったが、森さえなければ今夜停留する予定の町はすぐそこで、二人も特に気にしている様子はなかった。
「ダンジョン文化が盛んになって、犯罪者の数も増えたと聞いたことがあります。後ろめたい理由で探索者ギルドに登録できない人は秘密裏にダンジョンに入ったり、町から町へ移動する探索者を狙って魔法具や魔石を強奪しようとしたりするそうです」
リリアの説明を聞きながらディアはもう一度馬車に乗せた盗賊たちの様子を確認する。
炎の短剣の火力には十分に注意した。
多少の火傷はしているが、命に別状はないはず。
気絶したのは全身が燃えたことによる恐怖心のせいだろう。
ディオが気になったのは彼らの服装や身につけた装備である。
比べるのも失礼かもしれないと思いつつ、横を歩くリリアのものと比較すると彼らはリリアよりも質の良いものを身につけているのがわかる。
例えば武器。
リリアが腕につけているボウガンはディオからすれば目新しい部類に入る。
彼の時代にも弓を扱う探索者はいたが、それをここまで小型化する技術には驚くばかり。
とはいえ、その威力や使われている素材を見るにそんなに大したものではないとも思えた。
反対に盗賊たちの武器は売り払っているためか魔法具の類は見当たらないものの、刀剣や弓、防具とどれをとってもそれなりに有能な物であるとわかる。
ディオの時代では盗賊というのは自力で稼ぐことのできない者が集団で集まり悪事を働く組織という程度の認識しかない。
しかし、捕まえた彼らを見るとある程度の統率が取れていて、身に付けるものも必要十分。
駆け出しの探索者よりも多く稼ぎがあるのもわかる。
「え……なんですか、その悲しそうな目は。何か私のことを哀れんでますか?」
ディオの視線に気がついたリリアはドキッとした様子で跳ね上がる。
それほどにディオは悲しそうな目で彼女のことを見ていたようだ。
ディオにそんなつもりはなかったが、リリアは「哀れまれている」と感じたらしい。
ディオが盗賊たちと自分の装備を交互に気が付き、恥ずかしそうに自分の装備を両手で隠そうとする。
「仕方ないんですよ! 駆け出しだって色々いますし、これはあくまで『標準的な装備』です! 盗賊と比べないでください」
自分の装備が盗賊たちに劣っていることは彼女も気にしていたようで言い訳をするように早口でまくし立てる。
ディオは「大変なんだな」と思い、自分が初めてダンジョンに入った時のことを思い出した。
そういえば、その時の装備は父の形見の剣だけで防具は一つも身に着けていなかった。
今着ている服はその後ダンジョンで手に入れたものばかりだ。
それを考えればリリアの格好は十分に豪華にも思えた。
「こいつらから装備をはぎ取っておくか?」
ほんの思い付きでディオがそう尋ねるとリリアは驚いた様に首を大きく横に振る。
「そんなの盗みと同じじゃないですか! ダメですよ。この人たちが盗んで身に着けている者はもとは他の誰かのものだったんです。身柄を町に引き渡してきちんと持ち主のもとへ返してあげないと」
その言葉にディオは感心した。
「随分と治安がよくなった」と思ったのだ。
ディオの時代ではダンジョンで得たものは基本的に早い者勝ちというのが探索者の暗黙の了解だった。
明確な所有権というものはなく、誰かが手放したものは次にそれを見つけた人が勝手に使うのが普通だった。
リリアの発言を受けて時代と共に倫理観が育ったのだと思った。
ただ、これはリリアが真面目過ぎるだけだった。
実は探索者の多くはディオのいた
時代とあまり大差のない倫理観で生きていて、たとえば今回のように盗賊に襲われてそれを返り討ちにした場合はその装備を軒並みすべて奪って売りさばくということもざらである。
「そういった装備は探索者ギルドが負担してくれるのか?」
再び歩き始めてからディオは興味本位でそんな質問をした。
駆け出しの冒険者の装備をギルドが負担してくれるのならば随分と助かるだろう。
しかし、リリアは首を横に振る。
「基本的にはすべて自腹です。……あ、でも他の探索者が使わなくなった装備を安く売っていたりはしますよ」
探索者ギルドでは魔石や素材のほかに装備品の買取も行っている。
ダンジョンに潜り新たな装備を手に入れた探索者はそれまで使っていた不要になった装備をギルドに売るのである。
それは決して高額ではないが、捨てるよりはいいという理由で持ち込む者は多い。
買い取られた装備品はギルド内で査定され、まだ使える者は駆け出しのために安く販売されているのだった。
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