第14話
リリアは実際に自分の先祖と会話しているというこの状況にドギマギしつつ、それでも会話を終わらせたくないと思い自分から質問してみることにした。
「ディオ……さんの時代の探索者ギルドはどんな感じですか?」
言葉を口にしてから「しまった」と思う。
まだ出会ったばかり、子供の頃から祖父にずっと話を聞いてきた自分の中の英雄が目の前にいて、彼女は舞い上がりつつも冷静になろうとしていた。
探索者にとって重要な心得だとか、罠を見抜く時に気をつけていることなど聞きたいことは山ほどあったが、いきなり距離を詰めるのも悪いと思い当たり障りのない話題を探して出たのがその質問だった。
しかし、口に出してすぐにそれがディオにとって「過去のことを思い出させる」質問になることに気がついた。
現状帰る術のわからない相手に対してその質問を選んだ自分の無神経さをリリアは呪った。
一方でディオの方は特にかした様子もない。
「ダンジョンをクリアして外に出てみれば突然千年後の世界だった」その不可思議な現実を不思議と受け入れられている。
もちろん帰りたいと思う気持ちは強いが、自分のいた時代のことを思い出して悲しくなるような気持ちには今のところならない。
むしろ自分のいた時代と現代の様々な違いに興味が沸いて仕方がない。
「これも探索者の性質か」と思いながらディオはリリアの質問に答えた。
「俺の時代に『探索者ギルド』なんてものはなかったよ。ダンジョンはいわゆる無法地帯ってやつで、中に入るのもそこで命を落とすのも全て個人の裁量だった。当然困った時に助けてくれるやつなんていないしな」
ディオは「探索者ギルド」という存在を正直に羨ましいと思った。
駆け出しをサポートしようとするその姿勢も好感が持てる。
ディオのいた時代では現代のように「パーティーを組んでダンジョンに潜る」という文化もなかった。
皆我先にとダンジョンに一人で潜っていき、誰が最初にクリアするのかを競争するように攻略していく。
そこに楽しさを感じないわけでもなかったが、やはり命を落とすリスクは相当に高い。
実際に欲を出しすぎて命を落とした探索者をディオは何人も知っている。
「探索者ギルド」という組織によってある程度管理され、ダンジョンで命を落とす可能性が昔よりも少なくなっているとしってディオは嬉しかった。
「町についたらディオ……さんを案内しますね! 私も特別詳しいわけではないですが、この世界のことを色々と知ってほしいです」
ディオが少し嬉しそうな顔をしているのに気づくとリリアも嬉しくなった。
「もっと仲良くなりたい」「探索者について色々と教えて欲しい」そう思い、町の案内を申し出る。
一行はちょうど森を抜けるところだった。
抜けた少し先に小さな町が見える。
今夜泊まる予定の町である。
ディオはリリアの方を振り向いて
「ディオでいい」
と言って笑った。
♢
トルネリア王国の西に位置する「ドルミィ」という町はギービナから馬車でおよそ二日という比較的近い距離にある。
ギービナに比べて町の大きさは半分ほどで、定住人口も随分と少ないが周辺に存在するダンジョンの数だけは同等という特色を持つ。
その難易度はギービナよりも少し高めなため、ギービナで経験を積んだ駆け出しの探索者が次に立ち寄る町の定番となっている。
その数あるダンジョンの中に森に聳え立つ大きな木の幹にぽっかりと空いた空洞から地下に向けて道が伸びる「魔大樹の道」と呼ばれる場所があった。
駆け出し探索者の「ハリオ」はこの日この魔大樹の道に挑んでいた。
彼はドルミィに来ておよそ一か月。周辺のダンジョン一つずつに順番に挑戦している。
魔大樹の森はほぼ一本道という特殊なダンジョンで罠も比較的少なく、慣れてさえいれば少人数で回れる上に短時間で攻略できるため、他のダンジョンに挑戦した帰りにこのダンジョンをさくっと終わらせるのがハリオの日課となっていた。
この日もパーティーメンバーの「ミッド」と共に町に戻る前に立ち寄ったのだ。
「あいかわらずしけたダンジョンだよな。でてくる魔物もこのでっかいアリだけだし、張り合いがないぜ」
短めの槍を肩に担いだミッドが悪態をついて地面に落ちている巨大アリの首を蹴っ飛ばした。
他にも無数に散らばったアリたちの死骸から魔石を回収しつつハリオはその言葉に苦笑する。
「仕方ないだろ。ここに来る探索者はだいたい僕たちと同じような人たちなんだから……。この少しの魔石でも、売れば少しは足しになるんだからバカにできないよ」
取り出した魔石を腰に付けた布袋にしまう。大きさや価値はギービナ周辺の魔石とほとんど変わらないが、拾える確率はまあまあ高い。
そのおかげで駆け出しの探索者にとってなかなかいい収入源となっている。
魔大樹の道は比較的簡単に魔石が入手できるために同じような目的で潜る探索者が多いのだ。
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