第10話

ディアはウェインの申し入れを了承する。

千年後の世界に突然来て、情報が必要なのは彼も同じだったからだ。


探索者ギルドの本部であればここよりも多くの情報が得られるのは明白だった。


ディオが頷いたことでウェインは幾らか肩の荷がおりたようでほっと胸を撫で下ろす。


それから今度はリリアの方に向き直った。


一方で、リリアは背筋を伸ばし全身を緊張させたままの姿勢でソファに座ったまま微動だにしない。


彼女にして見れば、目の前に旧に男が現れ自分の祖先と同じ名前を名乗り、それまであって当然だったダンジョンが目の前で消えてなくなった上に、駆け出し探索者にとっては雲の上のような人物に目撃されていて、ここまで連れて来られたのである。


ディオとウェインが二人で話をしているうちにどうにか自体を飲み込み整理をしたものの、未だに脳は許容量を超えてオーバーヒートしていた。



「リリアさん。これはギルドからの正式な依頼という形でお願いをさせていただきたいのですが、彼を王都まで案内していただけませんか?」



ウェインにそう言われてリリアは「へうっ?」という奇妙な返事をする。


まさか、自分に話が振られるとは思っていなかったという様子だ。


「ご安心ください。王都まではギルドの馬車を使って安全に行っていただきますから。ただ、彼は現代の世界に不慣れ。戸惑うこともあるでしょう。そこを貴方にサポートしていただきたいのです」


その申し出に返事をする前にリリアは「なぜ私に?」と思った。


ディオが自分の先祖と同じ名前であるということをリリアはまだディオにもウェインにも話していない。


それなのに、こんな駆け出しの自分に任せるような内容の依頼ではないだろうと疑問に思った。


「彼は現在この国に知り合いがおりません。故に、ほんの少しとはいえ関係のある貴方にお願いしたいのですが……」


ウェインはそう付け加える。

それから、依頼として発行した場合の報酬も提示した。


「あまり、多くは支払えませんが」


そう言いつつウェインが差し出した紙に書かれた金額を見て、リリアは目を丸くする。


あまり多くは払えない? とんでもない。そこには駆け出しの探索者が一年以上働いても手に入らないような金額が書かれていた。


その金額に目を回しながら、リリアはチラリとディオの方を見た。


彼はどう思っているのかが気になったのだ。


ディオは窓辺に腰をかけて腕を組み、何やら考え込むように俯いている。


リリアは少しホッとした。

少なくともディアが嫌な顔をしているわけではなかったからだ。


それと同時に、「もしこの人が本当に私のご先祖様ならばできる限り力になりたい」と思った。


「私……やります」


リリアがそう言うとウェインの表情がパァッと明るくなる。



「そうですか、良かった。ディオさんもそれでよろしいですね」


そう言ってウェインがディオの方を振り向き、ディオは小さく頷くのだった。


その後、ウェインはすぐに馬車と必要な物を用意させるといって二人に隣の待合室で待つように伝えた。


二人がその指示に従い、部屋にウェイン一人になると部屋の隅の本棚名前からスウッと人が現れる。


ウェインの部下で、探索者をしている男だ。

彼は姿を透明にする魔法具を使いずっと話を聞いていた。


「ふぅ……なんとかなりそうだ」


椅子の背もたれに大きく寄りかかりウェインが息を吐くと現れた男が前に歩み寄る。


「何故、あの少女にあんな依頼を?」


男がそう尋ねるとウェインは椅子を揺らしながら「フフン」と上機嫌に笑う。


「僕が懸念しているのはあの二人が実は共犯で、『ダンジョン』を破壊する術を隠し持っていた場合さ。その時は恐らく二人とも『黒』。その尻尾を掴むには彼らをまとめて泳がせた方が都合がいいのさ」


ディオとリリアには話さなかったが、ウェインはディオの言葉を信じる一方で疑ってもいた。


千年前の過去から来たとか、ダンジョンを真にクリアしたとか大袈裟な話をして、本当のところはただ内側からダンジョンを壊しただけなのではないか、と。


ダンジョンに不信感を持ち、「ダンジョン撲滅」を掲げている輩も国内には少なからずいる。その中には爆発する魔法具や強力な魔法で直接ダンジョンを壊そうと攻撃する「過激派」も。


それらが成功した試しはないが、ウェインは今回の件がその初めての「成功」である可能性も考えていた。


もしもそうであれば、あの二人はこれからもダンジョンを狙うだろう。


それならばいっそ話にのったふりをして二人まとめて観察しようというのがウェインの狙いだった。


「後のことはよろしくね」


ウェインは男にそう言ってウィンクした。

男は無言で頷き、それからまた姿を消すのだった。

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