第6話
リリアを担いだ男はそのままダンジョンの外まで止まることなく駆け抜けた。
魔物がいればその横をすり抜けるようにかわし、リリアが近づかないようにしていた罠は無理やり発動させて乗り越える。
ようやく外に出た時、リリアは目が回るような感覚に襲われていた。
「うぅ……きもちわるい」
今まで経験したことがないほどの激しい揺れに強い乗り物酔いのような状態になってしまったらしい。
男はうつぶせでうなるリリアには目もくれず、ダンジョンを見ていた。
岩肌をくりぬいた様にぽっかりと空いた穴がドーマ地下迷窟の入り口である。
男が現れてから急に始まった地鳴りと揺れは脱出した今も続いていて、むしろどんどん強くなっていた。
気持ち悪さに耐えながらリリアが顔を上げると目の前にある大きな岩山が轟音とともに崩れ落ちていくところだった。
岩山はそのまま地面に飲み込まれるかのように消えていく。
「ダンジョンが……消えた?」
リリアは目の前で起こったことが信じられなかった。
それまで当然のようにそこにあったドーマ地下迷窟が今ではもう跡形もなく消えてしまった。
目の前にはただの平地が続いていて、ダンジョンがあった形跡すら残っていなかった。
「いったい何が……どうして……なんで」
あまりの衝撃に言葉が出てこない。
リリアは縋るように男の方を見た。
反対に男はひどく落ち着いている。動揺しているリリアを見て不思議そうな顔をしているほどだ。
「なんで驚いてるんだ? 攻略したダンジョンが消えてなくなるなんて普通のことだろう」
男が何を言っているのかリリアにはわからなかった。
「ダンジョンが消えた」なんて話は今まで聞いたことがない。
それに、ダンジョンが攻略されたときに崩れるというならばかつてこのダンジョンに入り、最深部まで到達してそこに何もなかったと公表した男がいる。
その人物が最深部にたどり着いた時点でダンジョンは攻略されたことになるはずだが、事実として崩れてはいなかったではないか。
そこまでを脳内で考えて、リリアは思い出した。
目の前の男がその最深部の「何もない」とされていた扉の向こう。暗い闇の中から出てきたということを。
「あっ……あの、あなたはいったい何者なんですか」
聞きたいことが多すぎてしどろもどろになりながらリリアは何とかその言葉を口から発した。
「俺の名前はディオ・グリム。孤高の探索者にして、たった今! このダンジョンをクリアした男だ!」
男は鼻高々にそう言った。
その名前はリリアにとって今までに何度も聞いた名前である。
リリアの理解はもうすでに追いついていない。
突然現れたなぞの男。崩れ去るダンジョン。さらに、その現れた男は祖父が話していた先祖と同じ名前を語っている。
偶然か、それとも名前を騙る偽物か。
とにかく頭を整理するために質問をしたのに、その結果聞きたいことがさらに増えてしまった。
リリアが話を整理しようとあたふたとしていると二人のもとにぞろぞろと人が集まって来た。
「そこの二人! 無事か。いったい何があった」
先頭を歩いていた男がリリアとディオに気づき声をかける。
彼はギービナの町の探索者ギルドのリーダー「ウェイン」である。
ウェインは町にいるときに強い揺れを感じ、周囲の異変を察知した。
詳しい状況を知ろうと町の一番高い塔に上り周辺を観察していたところ、ドーマ地下迷窟が崩れ去るのを遠目で確認したのだ。
ダンジョンが崩れ去るという異常事態に町の探索者と衛兵を集めてダンジョンに急行したというわけである。
リリアはウェインに起こったことをすべて報告した。
それはしどろもどろで要領を得ず、わかりづらいものだったがウェインはなんとかそれを解釈した。
そしてその横でずっと話を聞いていたディオの方を向き尋ねる。
「つまり、君がこの『ドーマ地下迷窟』をクリアし、そのせいでダンジョンが消滅した……と?」
リリアの話からなんとか話を整理したウェインが尋ねるとディオは当然というように自身満々に頷いた。
その反応をみてウェインは頭を抱える。
正直、パニックになりながらも事情を説明したリリアの言葉を読み解いただけでその意味を理解したわけではない。
否定してほしくてディオに確認を求めれば自信満々に肯定する。
嘘をついているとしか思えないのだが、二人の様子を見るに単純に嘘をついているようには見えない。
「待ってくれ……。ギルドの履歴にはリリアさんの名前はあるがあなたの名前はない。君は一体いつこのダンジョンに入って、いつクリアしたというのだ?」
ウェインはギルドから持ってきたドーマ地下迷窟に入った探索者の名簿を見て言った。一番新しい記録はリリアの名前。
しかし、過去三か月ほど遡ってみてもディオという名前は書いていない。
「いつって……このダンジョンが出現してすぐだよ。そんでさっきクリアした」
あっけらかんというグリム。
ウェインはもう一度深いため息をついた。
ドーマ地下迷窟はその難易度の低さはともかく随分と古くからあるダンジョンだ。
「君の話を信じるとするならば、君はおよそ千年このダンジョンの攻略をしていたことになるのだが……」
呆れたような、それでいてどこか本気にしているような口調でウェインは言った。
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