第4話
呼吸を整え、心を落ち着けけた後リリアは落ちた蝙蝠たちに短剣を向け、その内部を切り開いていく。
小型の魔物が魔石を体内に宿していることは稀で、見つかったとしてもそれは小指ほどのサイズもなく大した値もつかないのだが、いまのリリアにとっては貴重な資金源だ。
八匹の蝙蝠を調べた結果、一匹だけ小さな魔石を体内に溜め込んでいた。
魔石は魔物の体内で魔力が結晶化したもの。
魔物の大きさと保有する魔力によってその魔石の大きさもだいたい決まっている。
また、魔石が体内で作られるスピードもその個体の魔力量に関係している。
小型の魔物だと魔石ができるまでに死んでしまうこともあるため、魔石を持っている個体はそれだけ長生きをしているということになる。
おそらく、唯一魔石の取れた個体がこの蝙蝠の群れのリーダーだったのだろうとリリアは結論付けた。
そのリーダーはリリアが最初に放った三本の矢のうちの一本で絶命している。
リーダーを殺されて統率が乱れた結果、真正面から向かってきてくれたのでその後もボウガンで迎撃ができた。
向かって来ずにばらけていたり、一直線ではなく射線を意識して蝙蝠が飛んできたりしていたらリリアはもう少し苦戦していただろう。
町で購入した一番安い軟膏を耳になってからリリアは再び歩き始めた。
蝙蝠の死体は解体を終えた後できるだけダンジョンの隅によせてそのままにしてある。
ダンジョンの不思議な仕組みの一つで、倒した魔物の身体を放置しておいてもそれが腐ることはなく、いつの間にか消えてなくなってしまう。
探索者の中ではこれを「ダンジョンが吸収した」と呼んでいて、ある研究者の推察ではダンジョンが魔物の死体を糧にして新たな魔物や罠を生み出しているのではないかということだった。
素材が必要な場合はその必要な部分だけを切り出して持ち帰れば消えることはない。
一つ目蝙蝠の素材を欲する人なんて居らず、売れるものもない。
この仕組みのおかげでダンジョン内の衛星は比較的保たれていて、理由はわからずともこうして必要のないものはダンジョン内で邪魔にならないように隅に寄せておくのが探索者の暗黙の了解になっていた。
リリアがダンジョンをさらに奥に進んでいくと、再び蝙蝠の群れと出会う。
今度はリーダーを残して先に倒してしまい、少し苦戦したが無事に撃退し、また一つ小さな魔石を手に入れた。
リリアがこのダンジョンに来た目的。
依頼書の内容は「最深部に生えた魔草」の採取だった。
「魔草」というのはダンジョン内で育つ薬草のようなもので、成長のために自然光や水を必要とせずその代わりに魔力を吸って育つ植物である。
基本的には魔力を回復させる薬や傷を治す薬の材料として使われる。
ダンジョンの大きさやその内部の魔力量の多さで魔草のグレードも変わるのだが、高いグレードよ魔草だけが必要とされるわけではない。
例えばリリアが使っている一番安い軟膏にもこの魔草が使われているが、そのグレードはドーマ地下迷窟で採取されるものと同等である。
より良い魔草からはより良い薬が、そうでない魔草からはそうでない薬しか作れないという理屈になるのだが、良い薬は当然価値も高い。
駆け出しの探索者が集まるギービナの町では高い良い薬よりも、安く効果の薄い薬の方が需要が高いのである。
リリアは何時間もかけてようやくダンジョンの最新部に辿り着いた。
午前中に町を出て、昼前にはダンジョン内に入ったがこの調子では採取を終えてダンジョンから出る頃には日も落ちかけているだろう。
時間がかかるのはいつものことなので気にしない。
今何よりも大切なのは無事に魔草を摘み取り、持って帰ることである。
依頼書の金額はこんなに簡単な依頼にしてはそこまで低くない内容だった。
恐らくどこかの大手商会が軟膏を作成する素材分を買い貯めておこうとしているのだろう。
そのお金とここまでに数個拾った魔石を換金した分を合わせれば何とか町で一番安い宿と質素な夕食分くらいの値段にはなるだろう。
逆に言えばこの依頼を無事に達成できなければ今日泊まるところもないし食べるものもない。
リリアは最深部の大きな部屋の中でひたすらに魔草を探す。
魔草はだいたい壁と床の境目のようなせせこましいところに生えている。
リリアは最深部の一番端まで歩くと、両膝をつき四つん這いで壁沿いに進むことにした。
この体勢で最深部をぐるりと一周すればこの部屋のほとんどの魔草を集めることができるはずだ。
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