第3話

ドーマ地下迷窟の中はひんやりと冷たい空気が流れていた。

迷窟は自然にできたようなものではなく、その壁や床を見ても明らかに人の手が加わっている。


「ダンジョン」というこの国に突然現れた資源について、実はわかっていないことの方が多い。


「誰が」「何のために」「どうやって」作ったのか。そのすべてが不明。

中になぜ財宝があるのか、強力な武器はどうやって作られたものかも判明していない。


国としてはその現状をあまり重要視はしていないようで、一部の限られた人間が調査を進めてはいるようだが、「理由はわからないが国にとって有益なもの」という認識が国民にも広まっている。



リリアはダンジョンに入るうえで必ず用意する道具がある。

一つは「浮靴」と呼ばれるもので、ダンジョンで獲れた魔石を使用して作られる魔法具である。


その名前の通り、「履くと一定時間浮くことができる」というもので自由に空を飛び回ることはできないが落とし穴など一部のダンジョンの罠を無効化出来るほか、魔物との戦いの場面でも機動力で大きな利点を得ることができる。


もう一つは「魔煙」というろうそくの形をした魔法具である。

これは、火をつけて煙を炊くとその煙が安全な道へ導いてくれるというものだ。


煙は魔石から得た魔力を含み、空間の中の魔力の溜まったところに反応する。そして、ダンジョン内のそう言った場所には罠が設置されている可能性が高い。


他にも探索者向けに発明されたこういう類の魔法具は世の中に多く存在しているが、駆け出しのリリアに入手できるのは今のところこの二つくらいだった。


これらの魔法具は比較的安価ではあるが、それは「十分に稼げる探索者にとって」である。リリアにとては十分に財布を圧迫する代物なのだが、それでも彼女はダンジョンに入る時にこの二つの魔法具を欠かしたことはない。


それはダンジョンを脅威としてとらえる祖父の教えがあったからだ。


この世界には魔石から作られる魔法具のほかにも「魔法」という技術が存在している。

有名な探索者の多くは魔法使いであり、その実力も折り紙つきだった。


しかし、リリアは魔法を使うことができない。

それは決して珍しいものではなく、そういう探索者も大勢いるしそういった探索者のために魔法具が存在しているのだ。


とはいえ、魔法を使える探索者よりも使えない探索者の方が魔法具を準備する手間とお金がかかることは間違いなく、探索者になってから爆発的に人気が出て新しいダンジョンに行けるようになるのは圧倒的に魔法を使える探索者の方だった。


リリアはドーマ地下迷窟に入ってすぐに魔煙を炊いた。

煙が風に乗ってながれ、ダンジョンの奥まですすみ安全な道を示していく。


煙の溜まったところには近づかないように気を付けながらリリアは慎重に進んでいく。

魔煙による罠の探知は完全なものではなく、あくまで生存率を高める程度でしかない。

煙がとどかないような場所もあるし、ダンジョンによっては魔力を伴わない罠もある。


だから煙を炊いても安全というわけではなく、リリアは一歩ずつ足元を確かめるようにして進んでいった。



それなりに時間たち、慣れたパーティーであればすでにダンジョンの最深部までたどり着いているだろうタイミングでリリアは初めて魔物と遭遇した。


それは一つ目の蝙蝠の魔物で吸血や疫病を振りまくといったことはないが、群れを成し探索者にまとわりつくようにして噛みついてくるので探索者から嫌われているまものである。


リリアは右腕に取り付けある小さめのボウガンを構えた。

矢の威力は低いが、取り回しがよく三本までなら連射が可能なためリリアはこの武器が気に入っていた。


まず三本の矢を離れたところにいる蝙蝠一匹ずつに命中させる。

威力が低いとはいえ「初心者向け」といわれるドリノ地下洞窟の魔物程度なら一撃で倒せる。


空を飛んでいた蝙蝠が三匹ぼとぼとと下に落ち、リリアの存在に気が付いた他の群れが近づいてくる。

残りの群れが完全に近くに来る前にリリアは素早くボウガンに矢を装填して、すかさず三本また打ち込んだ。


残りの蝙蝠は二匹。

完全に近づいてきた蝙蝠たちをリリアは腰から抜いた短剣で順番に差していく。


そのうちの一匹に耳を嚙まれたが大した傷にはならなかった。

蝙蝠を全部倒してからリリアは一息ついて額の汗を拭った。

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