第7話 竜退治

 拝啓 親父、お袋、そして村のみんな


 俺は今、ドラゴンと戦っています。

 ただ剣を直したかっただけなのに、どうしてこうなったんだろうか…







「ぼけっとしない!ブレス来るわよっ!!避けなさい!」


 言われなくても分かってるっての!


 いちいちこちらを苛立たせる言い方をするこの女(名前はアイシャと言うらしい)こそ、俺が竜退治をする羽目になった元凶だ。

 伝説の剣の直し方を知ってそうな感じだったから手伝う事にしたが、今となっては後悔している。

 まさか、竜退治がこんなに命懸けだなんて…



 口内に溜めた炎を一気に解き放つドラゴンの必殺技、ブレス。

 広範囲高火力とかなり厄介な攻撃である為、受けるという選択肢は存在しない。


“避ける”

 これが一番正しい選択とされている。


「来るわよっ!!」


 女の声が聞こえるとほぼ同時に、ブレスが放たれた。


 俺も女もそれなりの大きさの岩陰に隠れて、そのブレスをやり過ごす。

 だけどこんなのはその場しのぎにしかならない。


 何故なら、この攻防は既に四度目なのだから。



 アズライグと呼ばれているドラゴンは、今俺たちの上空を羽ばたいている。

 山岳地帯を根城としていたので、そのまま山道で戦っているが、正直なところ上空を取られていてかなり分が悪い状況だ。



 上空から一方的にブレスを放ち、あのドラゴンはじわじわと俺たちを削っている。

 対してこちらは何も出来ていない。

 攻撃は届かず、ただ一方的にやられているだけだ。

 逃げようにも不用意に動けば上空からドラゴンに攻撃されてしまう。


 さて、どうしたもんか。

 そもそもだ、あいつはどうやってドラゴンを倒すつもりだったのだろうか?

 俺一人が加わったところでどうにもならないのは目に見えていただろうに。


 俺を過大評価し過ぎたとか…

 いやいやいやいや、それはない。

 あの女の目は囮として俺を理由してやろうと物語っている。

 だとしたら、切り札を隠し持ってる筈だ。

 あのドラゴンを屠れる、何か特大の切り札を。


「おい、何をしたらいい。何か考えがあるんだろう。」


「ないわよ、そんなの。あんたが食われてる最中に殺ってやろうと思ってたんだから。」


 こいつマジで…

 駄目だ。

 こんな奴を頼ろうとした俺は馬鹿だった。

 向こうがその気なら俺もやってやろうか。


 どうせあの女の切り札なんてアロンダイトとかいう聖遺物に決まってる。

 よし、作戦はこうだ。


 女から剣を奪う

  ↓

 そのまま女を囮にする

  ↓

 その隙に奪った剣でドラゴンを倒す

  

 うん、駄目だな。

 向こうがやろうとしたことをそのままやり返そうと思ったが、前提条件が違う。

 俺はあの女に死なれたら困るのだ。

 くそ、ここまで見越してやがったか。


 はぁ…仕方ない。

 このままだと一方的にやられるだけだし、作戦に乗ってやるとするか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る