第5話 共鳴

 いきなり話しかけて来たヤバい女との出会いから三日、俺は今、追われている。


 え?誰に追われてるかって?

 そんなの一人しかいないだろ。

 街で出会った、あの女だ。


「待ちなさいって言ってるでしょ!」


「だーかーらー、嫌だつってんだろうが!」


 足の速さは俺の方が上。

 もう、何回も撒いている。

 だけどあの女はどんな手法を使っているのか、必ず俺を見つけ出してくるのだ。

 全く、鬱陶しいことこの上ない。


 この三日間、剣もずっとカタカタと音を鳴らし続けていた。

 異変ばかりで正直参っているところだ。


「逃げ足の早い男ね。少しでいいから話だけでも聞きなさいよ!」


 ふん、やなこった。

 無視だ、無視。

 ああいう手合いの話は聞かん。


 三日間の逃走劇は全て、森の中で行われている。

 だから俺は、街中に逃げ込むことにした。

 人混みに紛れ込めば幾分か追跡が楽になるかも知れない。

 あわよくば、ターゲットを誰か別のやつに切り替えてくれるとありがたいのだが、それは望みすぎというやつか。



 出来る限り見通しの悪い森の中で女を引き離してから、街道を歩く。

 街道は見通しがいいから注意が必要だったが、追って来ている様子はなかった。



 冒険者協会は張られる可能性があるので今回は行かないことにする。

 久しぶりに宿でちょっと休憩して、頃合いをみて別の街に行こう。

 それで撒けるはずだ。



 うん、我ながらナイスアイデア。

 そう思っていた時が俺にもあった。



「あら、偶然ね。同じ宿に泊まるだなんて。席、ご一緒していいかしら?」


 翌朝、一眠りして快適な朝を迎えた俺が朝食を取ろうと席に着いた時だ。


 この宿は一階に食堂があり、そこでご飯を食べるシステムになっている。

 だから宿主から朝食を受け取り、長机の端でゆったりと食べていると、まさかあの女が俺の目の前に座り込んで来やがった。


「席ならいっぱい空いてるぞ。」


 周囲を見渡しながら、あっちに行けと言わんばかりに首で空席を指す。

 だが女はそんな俺の言葉など聞こえていないように無視すると勝手に喋り出した。


「あんたも冒険者でしょ。ちょっと依頼手伝ってくれない?」


 おっ、思ったよりまともな内容だ。

 いやいや、騙されてはいけない。

 この女はまだ、どんな魔物かも言っていないのだ。


 それだけじゃない。

 ただ討伐依頼を手伝って欲しいだけなら、協会に行けばいくらでも見つかる。

 わざわざ三日間も俺をつけ回した説明がつかない。

 伝説の剣を知っているのもそうだし、この女まだなんか隠してるぞ。


「いや…」


「あ、そうだ。もし断るんだったら今この場で風呂敷の中身が聖遺物だって叫ぶから。」


 この女…いい性格してやがる。


「しっかしあんたもいい性格してるわね。この世に12個しかない聖遺物を盗むだなんてよくやるわ。ま、私も人の事は言えないけどね。」


 ……ん?盗んだ?

 こいつ何を言ってるんだ?


「いや、盗んでないけど。」


「嘘ついても無駄よ。聖遺物同士は一定の距離まで近付くと共鳴する。私のアロンダイトは確かにあんたの風呂敷の中身と共鳴していた。あんたが聖遺物を持ってるのは間違いない筈よ。」


 ………共鳴?

 ああ!あのカタカタ鳴ってたやつか。

 あれってこの女の接近を知らせてたんだな。


「確かに聖遺物は持ってるけど別に盗んだ訳じゃない。」


「嘘よ。聖遺物は何処の国でも厳重に管理されてるわ。たかが一冒険者が持ってていい代物じゃない。」


「いや、まあそうなんだけど…」


 うーん、どうしたもんか。

 これはもういっそのこと言ってしまった方がいいのかも知れない。

 この女は俺より聖遺物について詳しそうだ。

 解決策を知っている可能性もある。

 よし、言ってみよう。


「実際に見てもらった方が早いか。実はあの風呂敷の中身は………」







「……信じられない。あんた、なんてことしてくれたのよ。」


 意を決して風呂敷の中の折れた剣を見せた訳だが、返って来たには酷く冷たい眼差しだった。


 やっぱこうなるか。




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