第4話 冒険者
一人旅を初めて、三月以上の時が経過した。
俺は今、冒険者として街を転々としながら生計を立てている。
冒険者という職業は、素晴らしい。
一度手数料を支払い登録を済ませてしまえば、どの街に行っても冒険者として働ける。
身元の詮索もされず、ただ魔物をした証拠さえ渡せば金が貰えるという、まさに俺みたいな奴には打ってつけの仕事だ。
まあその分ガラは悪いのだが、別に同業者と関わるつもりもないし気にしていない。
今日も今日とて適当な魔物を倒して金を受け取り、冒険者協会を後にしようとしたその時、風呂敷に入れている剣がカタカタと音をたてて震えた。
ん?いきなりどうしたんだ?
幸いにも少し揺れている程度で、音も持っている俺くらいにしか聞こえていない。
不思議な力を持っているのは知っていたがまさか今頃反応するなんて何があったんだろう?
不思議に思い辺りを見渡していると、誰かがトントンと肩を叩いた。
「あんた、ちょっといいかしら?」
女の声だ。
それも、相当若い。
振り返ると、薄汚い深緑のマントで顔まで覆い隠した小柄な女性が立っていた。
村の人間ではないな。
こんな声、聞いたことがない。
全くの他人、その上こんな見るからに怪しい奴が俺に何のようだ?
まあ、何でもいい。
こういう奴とは関わらないに越した事はない。
「悪いが用事があるんだ。他を当たってくれ。」
颯爽とその場を去ろうとしたが、女は俺の右腕を掴んで離さない。
しつこいな、と少しムッとした時、女の口から思いもよらない言葉が飛び出した。
「その風呂敷の中身、聖遺物でしょ。バラされたくなかったら大人しく私に従いなさい。」
————ッ!!
こいつ、どうして風呂敷の中身を知っている?
いや、ハッタリか?分からない。
だが、野放しにするのは危険だ。
ここで大人しく従ってしまえば、風呂敷の中身が聖遺物だと認めることになる。
そうなったら、完全に終わりだ。
俺は一生、この女に脅され続けるだろう。
知らないふりをして誤魔化すか?
この状況だとそれが良さそうだ。
そして直ぐにでも、この街をたとう。
流石に追ってくるような事はない筈だ。
「何の事か分からないな。とにかく本当に急いでるんだ。俺に構わないでくれ。」
それだけ告げると俺は腕を振り払い、その場から逃げ出した。
「あっ、ちょっと!待ちなさいよ!」
待てと言われて待つやつがいるか。
後ろで何やら騒いでいる声が聞こえるが、俺はそれら全てを無視して街の外に出た。
全く、街に入るのにも通行税を払わなきゃいけないってのに…
あの街には昨日着いたばかりだった。
もう少し情報収集だったり、観光だったりする予定だったのに勿体無い。
それにしてもあの女はなんだったんだろう。
用件くらい聞いておけばよかったか?
いや、あの手の女は一度捕まえたターゲットを死ぬまでこき使うタイプの人間だ。
話なんて聞いたら最後、厄介ごとに巻き込まれるに決まってるのだから。
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