第2話 初夜

「――さあ道乃丈みちのじょうくん、好きな食べ物を好きなだけカゴに入れていいからね?」


 貞操逆転世界に迷い込んだ道乃丈は現在、スーパーに立ち寄っていた。

 駅前で声を掛けてくれた黒髪美人・小宮山こみやま夜見よみの自宅へと向かう前に買い物をしていくことになったからだ。


 聞けば、夜見は社畜OLだという。

 今日はたまたま早めに上がれたものの、普段は終電間際まで働き通しなのだとか。

 ゆえに早上がりの今日はテンション高めで、道乃丈に声を掛けてくれたのはそんな浮かれた気分も後押ししてのことらしい。


「さあほら、何食べたい? 焼き肉? 唐揚げ? 餃子?」

「あ、えっと、半額のおにぎりとかで大丈夫ですけど……」

「――っ!? すごい遠慮がちだね……君ホントに男?」

「……なんですかその質問」

「あぁいやほら、男って無遠慮に奢られるのが当たり前みたいな考えの人が多い印象だから、遠慮がちな道乃丈くんの反応が意外というか」


(あぁなるほど……貞操逆転世界だからその辺の感覚も逆転してるわけか)


 奢られるのが当たり前と考える傲慢な女性は結構多いわけだが、こちらの世界だとその男バージョンが多いらしい。


「僕的には、ホントは奢られるんじゃなくて奢りたいくらいですよ……お金ないので無理ですけど……」

「っ……偉すぎ! その大和撫男やまとなでしお精神、大事にしてちょうだい!」


 大和撫男という単語まであるらしい。

 トコトンあべこべのようだ。


「でも私に対して遠慮はナシでいいわ。寂しい社畜OLはお金だけは余っているんだもの。さあほら、食べたいモノをカゴに入れてちょうだい。私も色々買っているし」


 と言いつつ、その色々はオールカップ麺だ。


「料理はしないんですか?」

「社畜にそんな暇はないっ」


 言い切られた。


「社畜は時間を切り詰めるために冷凍食品とかインスタント食品オンリーなの!」


 忙しい男性社員にありがちな食生活のようだ。


「タイパ重視は分かりますけど、身体に良くないですよ……よければ僕が作りましょうか?」

「え!? 料理出来るの!?」

「はい……一応ですけど」


 両親の帰りが遅い家庭だったので、幼い頃から自炊してきた賜物だ。


「すごいねぇ……今どきの男子って社会進出に躍起過ぎて料理出来ない子多いって聞くけど」


 そんなところまであべこべ。


「じゃあ是非道乃丈くんの料理食べてみたいな~」


 とのことで、普通に食材を購入してもらい、スーパーをあとにする。

 帰り道は車通りの多い道路だった。

 道乃丈はエチケット的に歩道の車道側を歩く。


「あら、なんでわざわざ車道側に?」

「え、だって男が女性を守るのは当然のことですよね?」

「――ヤダ♡ 男なんだから守られて当然というマインドを持たない素敵な男の子がこの世に居たなんて……♡」


 夜見がキュンとした表情になっていた。


(あぁそっか……この世界だと普通は女性が車道側なのかも……)


 現状の道乃丈は、普通とは違う優しさを見せる系男子になっているようだ。


「――おいし~♡」


 そして夜見の自宅マンションに到着し、その1LDKの部屋で手料理を振る舞ったところ、夜見は満足げに舌鼓を打ってくれた。


「道乃丈くんのことお婿にしたくなっちゃうんだけど♡」


 そんな言葉まで告げられる。


「い、いきなりお婿はちょっと……」

「まぁねw でもひとまずウチで暮らしてもらうことって出来る?」

「……いいんですか?」

「そもそもそのつもりで声掛けたわけだからね。まさかここまでのハイスペだとは思わなかったけども」


 冴えない真面目陰キャが、この世界だとハイスペになるらしい。

 ちょっと笑ってしまうが、嬉しい限りだった。


「……じゃあ是非、お世話にならせてください」


 貞操逆転世界を上手く世渡りして生きるために、このチャンスを不意には出来ない。

 

「ほんと? じゃあそうしてくれると嬉しいわ」

「でもタダでお世話になるのは申し訳ないといいますか……料理以外にも何かやれることがあるならさせて欲しいんですけど」

「んー、そうねぇ……なら……♪」


 じゅるり、と獲物を前にした蛇のような雰囲気が発せられる。


「社畜OLはちょっと欲求不満なの……♡」


 来た……、と思う。

 貞操逆転世界。

 恐らく男女比に偏りがあり、自然と女性の性欲が増している環境だ。

 となれば、


「このあと……寝室でイイコトしましょうか♡」


 道乃丈はごくりと喉を鳴らした。

 そして食後にいざなわれたベッドルームにて――


「――脱がせて……♡」


 との指示に従い、道乃丈は緊張と共に夜見のブラウスのボタンを外していくことになった。

 ブラウスを脱がせると、その下には肌着。

 それさえも脱がせると、グレーのスポブラがお披露目される。

 たわわな双丘が包み込まれたスポブラからは1日の頑張りを濃縮したような色香がむわっと漂っており、道乃丈はまた喉を鳴らしてしまう。


「……色気ないブラでごめんね? こうなる想定なんて全然なかったものだから」

「い、いや大丈夫です……」


 むしろ胸の輪郭をみっちりと象って膨らむスポブラの方が、普通のブラよりもえっちなのでは? と思う道乃丈である。


「あ、あの……ブラも脱がせていいんですか……?」

「ええ、もちろん……♡」

「じゃあ……」


 道乃丈はスポブラに手を這わせ、それをまくり上げるように脱がせていく。

 すると直後には当然のようにふたつの果実がたぷんと揺れながらお披露目された。

 ツンと上向いた形の良い乳房の先端部は、綺麗な桜色で彩られていた。

 道乃丈はまじまじと見つめてしまい、またひとつ喉が鳴ってしまう。


「ふふ……異性に初めて見られてしまったわ……♡」

「え……初めて?」

「もちろんよ♡ 男女比が1:20なんだから、出会いなんてそんなにないって分かるでしょ?」


(1:20……)


 どうやらそこそこ偏っているようだ。

 となれば、出会いがないことにも納得出来る。


「ところで、道乃丈くんは童貞?♡」

「あ、はい……」

「ふふ、じゃあ今夜はお互いの卒業式に……しましょうか♡」


(い、一夜にして童貞を捨てられるなんて……すごい世界だ……)


 そんな風に考えながら、道乃丈はまろび出た胸を吸ってみて欲しいとお願いされ、それを実行したりしつつ――


「――んん……っ♡」


 やがて夜見の穢れなきぬくもりを知って、オトナになったのである。

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