第8話 足音が聞こえた
これは去年の冬の話――
私は同級生のミユキとスキーに行った。クリスマスとお正月の間の時期。例年より早く降った雪でホテルも満室で私たちは、夏場はキャンプ場として使われているバンガローに宿をとった。
ミユキが朝までバイトだったのでそれから高速バスに乗って、着いたのは夕方4時頃だったと思う。途中のサービスエリアで買ったサンドイッチを食べて、私は乗り物酔いしてたから少し布団で休み、ミユキはナイトスキーに行くことになった。
少しして、ガタガタっと風が窓枠を揺らす音で目が覚めた。ベッドサイドの時計を見ると、3時間も寝てしまっていた。ワックスを乾かすために軒下で干していたスキー板が心配になって外に出ると、ミユキの板はまだ帰ってきていない。まだ夢中で滑っているのだろう。自分の板を担ぎあげて、ゲレンデの方を見ると、バンガローの少し離れたところに人影があった。その人物と目が合う。じっとこちらを見ていた。
不思議に感じたが、他のお客さんかなと思って、会釈をしてバンガローに入った。管理棟で受付をしたとき、今夜はお客さんが少ないと言っていたが、ゼロではなかったのだろう。体調は少し良くなっていたので、ダージリンティーを淹(い)れて、ソファーで推理小説読んでいた。その間、何度かカーテンを開けたが、窓の外の人影はずっとその場にいた。何度も、何度も。そして、暗くて見えるはずないのに、その視線はずっとこちらの方向を向いているのがわかった。
私の不安に反して、ミユキは閉園ぎりぎりまで滑って、お酒を買って帰ってきた。
「遅いよ」
私が言うと、彼女はテンション上がっちゃってと笑った。それから、順番にお風呂に入って、夕飯になった。夕食を作る合間も窓の外を見たが、ゲレンデの照明が落ちると、周りは暗闇だらけで何も見えない。
私がお風呂から出て、40分くらいたっただろうか。
ぺたぺた……
準備を終えて、ソファーに寄り掛かかると、寝室から足音が聞こえた。素足のペタペタした足音。私が台所にいる間に、ミユキがお風呂から上がっていたようだ。ご飯にしようと呼びに行く。
え?
しかし、扉を開けると、ミユキの姿はなかった。それどころか、電気も消えていて、雪のかすかな青白い光が窓から入ってきているだけだった。電気をつけた。が、やっぱり誰もいない。
ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた…………
次は、リビングの方から音がした。そちらへ向かう。しかし、誰もいない。
ここ、おかしい
バスルームの扉が開く。
ミユキが顔を出した。
「どうしたの?」
「ミユキ、今、お風呂出たんだよね? 寝室行ってないよね?」
「行ってないよ? どうしたの?」
思い出して聞く。
「スキー場から帰ってくるとき、こっちを見てた人いた?」
「いたよ」
「そう」
それならよかった。少なくても、あの人たちは幽霊じゃなかったんだ。
「でも、変だよね。おじさんが一人でずっとこっち見てるなんて。通報する?」
「……いや、いいんじゃない」
私が見た時は、おじさんと一緒に小学生くらいの男の子がいた。
じゃあ、いま、あの子はどこに?
今度はお風呂場から水遊びする音が聞こえた。
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