第7話 廃村の兄弟
僕はこの夏、ある廃村へ行った。
そこは終戦直後の大きな災害により壊滅したと言われているが、一瞬にして蒸発したかのように人がいなくなっており、詳細はわかっていない。そこに興味を持ち、夏休みを使って訪れた。
近くのインターチェンジから5時間。カーナビにも載っていたので、運転時間を除けば比較的行きやすい廃村だった。入口付近の家が倒壊していたから、しかたなく僕とサツキは車を降りて、村に着くとすぐにカメラで撮影を始めた。
村は聞いていたとおり昭和初期の平屋木造の家が並んでおり、時間の経過により劣化が進んでいるが、壊された形跡はなかった。雑木が家の後ろに茂っている。草だらけになった、かつての道だった場所を歩く。先週の台風の影響で地面が水を含んでいて歩きずらい。サツキはすぐに弱音を吐き、一際大きな家の縁側に腰をかけてしまった。僕が水筒を渡すと、彼女はグビグビと飲んだ。
僕も腰を下すと家の中を見渡した。そこには、食器や調理用具がそのままあって、未だに生活感を感じることができる。もしかしたら、誰か住んでるのでは?と思うほどだった。
一通り物色して戻ると、サツキはこともあろうか野良猫に餌を上げていた。「それ、猫に大丈夫なやつなのか?」と聞くと、「間違えて持ってきた猫缶だから大丈夫よ」と笑っていた。
それからは二手に別れて、各家の様子を写真に納めながら通りを奥へ奥へと進んでいって、村の重鎮が住んでいたであろう大きなお屋敷についたときには空が真っ赤に染まっていた。そのお屋敷だけが二階建てになっており、蔵もあるから捜索は明日にしようという話になった。それに、取ってある宿までは車で1時間くらいかかる。僕たちはカメラを止めて車まで急いだ。
その途中
「きゃ、こども」
サツキの声に僕は振り向く。彼女の指さす先には小学校低学年くらいの男の子ふたりが立っていた。距離があるせいでよく聞こえないが、「たすけてー」と叫んでいるようだった。サツキがこちらを見た。僕は「行ってみよう」と言った。
この村を調べているうちにある一つの可能性を感じていた。ここは廃村ではなくて、村人は住んでいるが何らかの理由により姿を隠しているのではないか、ということだった。そうではないと、お墓に生花を手向(たむ)けてある理由が説明できない。あの子たちを追っていけば何かわかるのではないかと思った。
僕たちは今来た道を戻るように、村の奥へ奥へと進んだ。途中小高い丘をのぼり、神社の横を抜けた。それでも、子どもたちの走る速さは落ちない。日が山裾に入り、一気に暗さが増した。
「待ってよー」
サツキがはるか後ろから叫ぶ。村の出口であろう門の手前で足を止め、サツキを待った。彼女が追いついて来た時には、男の子たちはずっと向こうに消えてしまっていた。でも、一本道だからまだ追いつけるかもしれない。彼女の弱音を無視して、村の門を超えようとしたときだった。
「こんな時間にどちらへ行かれるんですか」
そこには高校生くらいの女性がひとり立っていた。名前は「サチ」と名乗った。事情を話すと、血相を変えた。
「昔、この村はある災害に見舞われました。それを逃れるため、村人たちはあの山の中腹にある洞窟に逃げ込みました。しかし、その時、不運にも洞窟の入口で崩落が起きて村人約300人が生き埋めになりました。崩落から10日後、発見されたときには村人全員が亡くなっていたそうです」
「あの子たちは?」
「岩の隙間から抜け出して、麓の町へ助けを呼びに行った兄弟がいました。しかし、子どもたちも町へたどり着く前に力尽きてしまいました。今でも、その兄弟は村人のために助けを求めて人前に現れるようです。だから、決して彼らについて行ってはいけません」
言い終わるなり、サチさんは踵を返して、僕たちの車まで送ってくれた。
その翌日、嫌がるサツキを連れて、もう一度あの村を訪れた。そして、山を登ると中腹に、確かに大きな洞窟らしきものがあり、そこに花束を置き手を合わせた。
その後、地域の資料館へ行って話を聞いたところ、確かにそのような事故があり、村長の息子ふたりが崩落現場を抜け出したが、麓の町へ向かう途中で水量の増した小川に落ちて遺体で発見されていたがわかった。名前も知ることができたので、今度訪れるときはお菓子を買って持っていこうと思う。また、その兄弟とは別に、逃げ遅れて村で亡くなっていた女性がいたようだった。彼女は猫が大好きだった。そして、その女性の名前は「サチ」といった。
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