第6話 出てはいけない電話

 これは去年の話――


 あの日は梅雨の合間の蒸し暑い夜だった。何日も部活がなくて、少し遅い時間だったけど雨が止んだから少しだけ走ろうと思って家を出た。いつものランニングコースを走っていたんだけど、最近雨で部活がなかったせいで物足りなくて、一つ先の駅までに行くことにした。そこの途中で、噂では戦前に造られたいう歩行者専用の橋がある。その橋はいわゆる”出る”と言われている場所だった。

 スマホを見ると、夜の10時を過ぎていた。その先の橋まで行くと遅くなってしまうので、嫌な気がしたけどその橋を渡ることにした。

 霧(きり)が出てきていて、真ん中まで来た時には橋のどっち側も見えなくなっていた。先週から降り続いた雨で、川の濁流だけが聞こえる。

 やめた方がよかったな。

 かと言って、どちらかには行かないと帰れないので、先に進んだ。

 その時、スマホが着信した。霧でよく見えなかったが、名前も電話番号も出ていなかったような。電話に出る。

「もしもし?」

『あ、オレ』

「サトル? どうした?」

 同級生のサトルからだった。中1から5年間ずっと同じクラスの腐れ縁だ。

『今、どこにいる?』

「なんで? 走ってるだけ、だけど」

『で、どこにいるんだ?』

「宿題か? 帰ったら電話する」

『今、どこだ?』

「帰ったら電話するって。帰り寄ろうか?」

『違う。どこにいるのか聞いているんだ!』

 あまりの権幕(けんまく)に驚き、橋の名前を告げる。すると、サトルはその橋で待ってるように告げた。すぐに行くから絶対動かないように念を押された。

 しかし、橋を渡り切るころになると、再び雨が降ってきて、あっという間に雨足が強くなってしまった。近くのコンビニに変更しようと電話をかけた。2コールで出る。

「もしもし、サトル? 待ち合わせ場所、この先のコンビニでいいか?」

『待ち合わせ? 何のこと?』

「さっき電話したじゃなん」

『オレ、電話してないけど』

 それを聞いて、体の奥から寒気がした。これは。

『おい、それ、”あの電話”なんじゃ』

 あ。思い出した。後ろから足音がした。僕の前をよる何者かの声が聞こえる。

 来る。

 急いで橋を抜けて、全力で走った。走った。コンビニに着いた時には、足音は聞こえなくなっていた。

 サトルに言われて思い出した。この橋にはある噂があった。この橋にいるときにかかってきた電話に出てはいけない。もし居場所を聞かれたら答えてはいけない。そうすると、あるものが迎えに来て、あちらの世界に連れていかれてしまう。

 今も雨上がりの霧が出た夜には、僕の名前を呼ぶ声が聞こえるらしい。

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