第5話 恐怖の呼び鈴

 これはまだコロナ渦の頃の話――


 あの頃は居酒屋さんの夜間営業ができなかったので、テレビ電話を繋いで飲み会をする、いわゆる”リモ呑み”が流行った。私の会社でも飲み会ができなかったので、このリモ呑みが奨励された。その日は人事部の歓送迎会が行われた。夜7時から始まった回は9時を過ぎたころには私を含めて6人になっていた。

 私と一緒に企画課へ移動した安田くんが、カナコの名前を出した。油断したいたからその話の流れとかは覚えていない。ただ、その名前が出た途端、全員に緊張が走った。

 「今はその話やめてよ」とミヨ。

 カナコは元同僚で、1年前に電車にはねられて亡くなっていた。ちょうど今日が命日。仕事帰りにお墓に寄ってお線香をあげてきたが、言おうか迷っていると、カナコが亡くなった原因の話になった。

 アルコールが入っていたことのあり、噂程度、あるいは完全な憶測を皆大声で話した。パワハラが原因とか、恋人にフラれたせいで自殺したとか、ホームから突き落とされたとか。当時もいろいろな憶測を呼んだが、はっきりしないまま事故死とされた。

 セクハラの噂くらいから、段々不快になってきて、アルコールも悪い方に回ってきて、私も飲み会を抜けようとしたときだった。

 ピンポーンと画面の向こうから呼び鈴が鳴った。「すみません。外します」と安田くんが画面の前から部屋の奥へと消えた。

2,3分して戻ってくると、すっかり表情が暗くなり、画面の前に戻るなり、一言「ごめん」とだけ言った。

 ピンポーン

 それから、10分も開かない間にまた呼び鈴が鳴った。次は、大先輩の山中さんだった。「何か頼んだかしら」と画面の前から離れ、数分で戻った。また、「ごめんなさい」と言った。

 ピンポーン  ピンポーン

 次々に呼び鈴が鳴り、私を除く全員が一度は席を離れることとなった。

 ピンポーン

 最後に私の家の呼び鈴が鳴った。振り返る。

 え? うちも??

 「ちょっと行ってきます」と席を立って玄関に向かった。10時少し前。チェーンロックを外す。

「はーい」

 扉を開けると、見慣れた制服姿のお兄さんが立っていた。お急ぎ便で実家から宅配便が届いていた。冷蔵なところを見ると、生魚でも入っているのだろう。遅い時間になったのをお兄さんがしきりに謝ってくれた。起きてから別にいいに。

 その箱をリビングのテーブルに置いて、パソコンの前に戻った。

「実家から宅配でした」

 画面を見る。するとそこには誰一人いなかった。カメラはオンになっていて、飲みかけのお酒と食べ物はそのまま、電気もついていて、人だけがどこかに消えてしまったようだった。

 どういうこと?

 鳥肌が立つ。鼓動が早くなる。

 ピンポーン

 その時、また呼び鈴が鳴った。

 また?

「はーい」

 扉を開ける。

 するとそこには、1年前に亡くなったはずのカナコが立っていた。

 目が合う。

 でも、そこにいるのに、そこにいないような気持ち悪い感覚。

 私は一歩も動けない。

 カナコが近寄ってくる。

 口を開く。


 みんな、あなたのせいにしようとしたから、殺しておいたよ


 それだけ言うと、私が瞬きした瞬間にカナコの姿は消えていた。

 翌日、早めに出社して人事部の課長が持っているファイルをこっそり読むと、カナコが管理部でいじめられ、会社を訴えようとしていたことがわかった。しかし、ヒアリングした後、人事部がもみ消し、カナコは自殺してしまった。私以外はみんな知っていたようだった。

「カナコ、ごめん……」

 知らなかったとは言え、何もできなかった自分を恨んだ。

 その直後、会社の電話が鳴った。昨日のリモート呑み会のメンバー5人が皆、玄関先で亡くなっていたとのことだった。

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