第3話 幼馴染が亡くなったときの話
キョウコが亡くなってから明日でちょうど1年になる。
6月にしては蒸し暑い日だった。その日は、幼馴染のユリの命日で、学校が終わったらユリのお墓にお線香を上げに行こうという約束になっていた。しかし、キョウコは現れなかった。
日が陰ってきて、風が出てきて。何度電話をかけても、スマホは鳴るものの、キョウコは電話に出なかった。しかたなく、ひとりでお寺の門をくぐる。「ご自由にお使いください」の桶に水を汲(く)んで、お墓の間を進む。太陽は厚い雲に隠れてしまい、昼間の暑さは湿度の高い不快さだけを残して消えていく。
ザッ……ザッ……
砂利を踏む自分の足音だけが聞こえる。
鳥肌が立つ。おかしい、寒い…
駆け足で、ユリの家のお墓まで行き、お米、お水、お線香を済ませて手を合わせた。
ユリ……
目をぎゅっと閉じる。
ユリは自殺だった。ユリとキョウコと私は幼馴染で、小学校のころから一緒に通っていた。1年前の今日も、朝、ユリを誘おうと家の前まで行くと、叫び声が聞こえてユリの家に飛び込んだ。泣き崩れるユリのお母さんの前に、白くなったユリの姿があった。ユリのお母さんが取り乱してしまったため、警察からいろいろ聞かれ、遺書の字も確認させられた。その時のユリの姿は一生忘れないだろう。もちろん、ユリとの大切な思い出も。
お線香のにおいがした。
背後の気配に振り返る。
カラスが飛んだ。
誰もいなかった。もう一度、風がお線香のにおいを巻き上げた。
予感がした。
キョウコの家へ急いだ。しかし、私が着いたとき、もうキョウコは白くなっていた。まだキョウコの家族は帰ってきていなかった。
机に置いてある遺書に目を通す。そこにはキョウコがユリをいじめていて死に追いやった経緯が書かれていた。
その日から明日でちょうど1年になる。正確にはあと30分。
あの時から気になっていたことがあった。
キョウコが書き残した遺書の文字、それはすでに亡くなっていたユリの字にそっくりだった。
窓から蒸し暑い風が吹き込む。その風はお線香のにおいがした。
次は私の番かもしれない。
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