第6話 声の主の襲撃
キューーン
聞こえる。
昨夜も聞こえた声の主だ。寝てからそんなに時間はたっていないと思う。
かまくらの入り口から夜空を覗いてみる。
青い月は日の出の地平線からだいぶ上に上がっている。地球でいうところの真夜中少し前くらいだろうか。
体の疲れはもうない。昼間はひどい筋肉痛になっていてもおかしくないくらい動いていた。まるで体を動かしていない日のような感覚だ。相変わらず不思議な世界である。
キューーン
また聞こえる。
一体何なんだ。何を求めて鳴いているんだ。
キューーン
まただ...。
さっきよりも声が大きい?近づいているのか?
まさか、僕の匂いを嗅ぎつけたんじゃ...。
そういえばお風呂に入っていない。昼間汗でベタベタになったままの体を拭いてもいない。
これは...バレてしまうのは時間の問題か...
キューーーン
声はすぐそこまで迫ってきている。
どうしたらいい?僕は、どうしたら...
そうだ、一か八か、やるしかない!
かまくらを支えていた部分を崩して入り口を塞ぐ。途端に半球型の天井がそのまま落ちてきた。
呼吸ができなくなる可能性もあるし圧迫されて出れなくなる可能性もある。だが、何もやらずに食われるよりマシだ。
ギユーーーン!!!
声はすぐ後ろまで迫っている。
頼む!気付かないでくれ!
どのくらい時間がたっただろう。声が聞こえなくなった。危機はもう去ったのだろうか。いや、待ち伏せの可能性もある。
とりあえず落ち着くことが大切だ。僕は大きく深呼吸をした。
それが間違いだった。
「やっと見つけた。」
耳元で発せられたそこ言葉に背筋が凍る。
心臓は冷え切り、一瞬止まるのが分かった。
喉が緊張して空気を堰き止める。一切の呼吸ができない。
目から血が出ているのだろうか、熱い何かが頬を伝う。
とてつもない不安に駆られたが、まだ生きている感覚を知り安心する。
これはどんな状況だ。動物が...喋ったのか?
声の主は、知能を持っていて...言葉を発して...え、日本語?
終わった。
ビチビチッ
草のかまくらを引き剥がすような音と共に背中に微かな風を感じる。
最後の抵抗だ。うずくまり、体を小さくする。
バチバチッ
ガリッ
背中側の壁が破壊されたのだろうか、微かに月の青い光が背中から舞い込んでくる。
"僕は草です"とでも語りかけるような背中を後ろの何かに向ける。
「ことで何をしている!...おい、聞こえているのか!」
あ、終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます