第4話 キノシタミミ

サンドウィッチを食べ終わった僕は岩を調べることにした。

草に隠れて少ししか見ることができない岩になにかロマンを感じる。


それにしても草が邪魔だ。いっそのこと引っこ抜いてしまおうか。

草の根元を持って手前に引く。根っこが頑丈なのだろうか、びくともしない。

仕方がないので茎を折って周りを広げることにする。


徐々に岩の全体像が見えてきた。どうやら岩は石版のようである。

横の長さはおよそ3メートル、縦の長さはおよそ6メートル。縦に長い石版だ。

岩の角から5センチ毎くらいに丸い模様が彫られている。オリンピックの5輪に近いだろうか。

長い間放置されているようで、大部分が苔で覆われている。一体誰が使ったのだろう。とりあえず苔を落としてみるか。


カバンから下敷きを出して苔を削り取る。

全ての苔を落とすと文字列が現れた。これは、日本語ではないな。象形文字?とも違うか。何にしても、見たことがない文字が並んでいる。

最初は題名が彫られているらしく、大きな文字がある。その後には長い本文が続く。


この場所の、この世界の手掛かりがないか探してみる。見覚えのある字はないか、地図はないか...。

無念、何もなかった。気を落として再び座ろうとしたとき、右の側面に何か彫られているのに気が付いた。なんだろう。

それが何か気が付いて息を呑む。

これは...。



"キノシタミミ"


そこに書かれているのは他のどの文字でもない。日本語だった。

キノシタミミ。おそらく日本人の名前だろう。

石版を作った本人なのだろうか。石版に何が書かれているのだろうか。草以外何もないこの地になぜ石版を作った?きっと意味があるはずだ。

もしキノシタミミが石版を作った本人でなくても、何か伝えたいことがあるはずだ。


でもなぜ日本語なんだ?英語でもよかったのではないだろうか。

もしかして、この世界には他にも日本人が来ているから?

他にも日本人が来ていると知っていたから日本語を残したのではないだろうか。


"キノシタミミ"

文字の感じからして彫られたのは随分前だ。まだこの世界で暮らしいているかは分からない。時間が経っても変わることのない石版。それに乗せて何を伝えようとしているのだろうか。


もう一度石版をよく調べる。読めない文字列を念入りに探し、日本語がないかを探した。

しかしそれらしい文字は何も見つからない。1時間くらい経っただろうか。真上から傾いた太陽はまだ強い光線を放ってくる。服が汗で湿っている。

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