第2話 朝日に向かって

夢を見た。

昨日の記憶。

世界を超える前の記憶。世界を超えた日の朝の記憶。


ユリがこちらを見て笑っている。閉じた口が動いている。どうやら朝の食事中のようだ。


「明日楽しみだね!」


ユリが言う。そうか、明日ミュージカルを観に行く予定だったんだ。

僕たちが結婚して初めてのミュージカルはライオンキングと決めていた。


場面は変わり新宿駅。

雨が強くなって駅で雨宿りをしている。

雨の勢いは弱まることを知らず、それどころかだんだん強くなっていく。

それに合わせるように空が黒くなる。

大粒の雨が空から落ちてくる。これに当たったらひとたまりもないだろう。

気が付くと雨宿りの人溜りが大きくなっている。


カチカチ


耳元で音がした。

隣の人は気づく様子がない。僕だけに聞こえているのだろうか。

僕は退屈凌ぎに音の正体を探すことにした。


バスロータリーのさらに向こう。何か光っている。

光の周りに周りで静電気のようなものが光った。

それに合わせてあの音が鳴る。

音の正体はあれか。

僕はそれを追うことにした。

雨の中、傘を差して人の群から抜け出す。集団から離れるにつれて視線が増えていくのを感じる。

今は好奇心の方が勝っている。あの光の正体を知りたい。


雨音が轟音になる。

風呂をひっくり返したような雨の塊が落ちてきた。

急に視界暗くなり、うまく歩けなくなってしまう。


そうか。夢か。






キューーン


目を覚ます。

緑の大地で熟睡していたようだ。

空はまだ夜色だ。


起き上がると最初の太陽が出ているのが見えた。光が弱い。

この世界は太陽1つでは足りないらしい。



キューーン


また声が聞こえる。

動物の鳴き声だろうか。

鶏のように朝の合図をしているのか、狼のように仲間を呼んでいるのか。


立ち上がり周りを見渡す。

膝くらいの草むらが延々と続いている。昨日と同じ景色。

太陽が沈んだ方はまだ光が届いていないようで暗い。



キューーン


また聞こえる。

この声がどこから聞こえるか見当もつかない。


声の主は誰だろう。肉食だったらどうしよう。

急に怖くなる。何も武器は持っていない。襲われたら最後、食べられてしまうだろう。


顔を叩いて目を覚まし太陽に向かって歩き出す。

少し歩いてカバンを忘れたのを思い出して早足で戻った。

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