第11話 旅の途中
「あんたなんか知らない!」
家に帰るなりユリが叫ぶ。
「どうしたんだユリ、なにか嫌なことでもあったかい?」
「嫌なのはあなたよ!ろくに家事もしないくせに飲み会ばかり。家族をなんだと思ってるの!?」
「わ、悪かったよ。でも今は大事な時期なんだ。分かってくれよ。」
「大事な時期って、なんで飲み会があるのよ!」
「取引先とか...い、いろいろあるんだよ!
お前こそなんなんだよさっきから!働いてるのは僕なんだぞ!僕がお金を稼いでいるんだ!僕がいなくなったらお前はどうするんだ!」
「う...うあーわーん...ひどいよぅ...
私だって我慢してるのに...友達が羨ましいよぅー」
ユリ...どうして...。
目が覚める。
そうか、もうユリは...。
2つ目の太陽の頭が出ている。
なぜ今あの夢を見たのだろうか。
昔の記憶だ。
ユリと1回だけ大喧嘩をしたことがあるが、たぶんそのときの記憶だろう。
訳が分からず叫んでいて、ようやく落ち着いたと思ったら僕もユリも泣いていた。
なんて朝だ。
まだ開かない目を擦り、なんとか視界を広げる。
...ん?目の前に女の人が...。
まさか、ユリ!?
寝ぼけていていたのだろう。普段なら慎重な僕なのだが、今は目の前の見覚えのある女の人に抱きついた。
「おい!どういうつもりだ!」
抱きついた途端に叫び声と共にグーパンチが飛んで来た。
「なんで?ユリ!ごめん、僕が悪かったから!飲み会も控えるから!だから...だからどっかいくなんて言わないで...」
「なんなんだこいつは!おい!いつまで抱きついているつもりだ!まったく、これだから短命は。いいか?戻ってこないものは戻ってこないんだ!いい加減目を覚ませ!お前が元の世界に戻れるかなんて、私にも分からないんだぞ!」
3回ほど続けて頬を殴られてようやく目が覚めた。
「す、すみませんでした!なんてお恥ずかしいところを...。あ、あの、僕元の世界に戻りたいなんて言いましたっけ。」
「自分で言ったのだろう、ユリに会いたいからって。私は覚えているぞ...(あ、そうか、記憶消したんだったな。)」
「言った?僕がですか?確かにユリに会いたいですけど....。僕はもうこの世界で生きる覚悟をしているつもりです。だから、だから僕は大丈夫ですから。」
「あぁ、そうか。やはり強いな。君たちは。」
それがどんな意味か分からなかった。ただ、そう言ったエルフの背中は少し寂しそうであった。
どれくらい乗っているだろうか。2つの太陽はすでに正午を示している。寝ていたから長い時間が経っている感じはしなかったが、もう半日は歩いているらしい。跨っているこいつをもう化け物とは思っていない。乗り慣れない僕を落とさないように歩いてくれている。なんて優しいやつなんだ。
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