第25話 夜会当日
結局、ミューゼオ侯爵と話していた人物が誰かわからないまま夜会当日になった。
今日の夜会は準備万端、昨日はしっかりとヴァレンスの愛情をたっぷり受け取りましたよ。これで今日は睡魔に襲われることなく、ミューゼオ侯爵に対抗できるというもの。
「ティナ(今日のドレスもよく似合っているな。俺の目の色の青いドレスが白い肌によく映えているし、黒のレース使いも上品でいいじゃないか。どんなティナも愛らしいが、俺の色が一番似合うな。もちろん、何も身にまとってないティナも最高で、昨晩のティナなんか女神のように美しかった。あのシミ一つない肌に俺の痕を散らした姿が……)」
ヴァレンスに手を差し出され、その手を取った途端、ヴァレンスの心の声がクリスティーナをうるさいくらい賛美しているのが聞こえてきた。
内心昨晩の情事を思い出して大興奮しているのに、全く表情に出ないところとか称賛に値する。しかし、昨晩を強制的に振り返らされるクリスティーナの身にもなって欲しい。
恥ずかしいだけでなく、妙な気分になってしまうじゃないか。
身体が火照り、頬を上気させてヴァレンスを見上げると、ヴァレンスは喉をグッと詰まらせた。
「(露出が少ないのに、何でこんなに色気がダダ漏れてるんだ?このエロ可愛いティナを、男達の目の前に晒さないといけないのか!?このまま部屋に連れて帰りたい!急病になったと言えばいいのでは?)」
(それは駄目だよね。第一、今日ミューゼオ侯爵と話していた誰かが私を襲う筈だし、それを捕まえればミューゼオ侯爵も連座に問えるかもしれないじゃない)
「ヴァル、昨日話したでしょ。今日は私は色んな人とダンスをしないとならないって」
「ハァ……(聞いたよ。聞いたけど、こんなに可愛いティナを、他の誰にも渡したくないんだが)」
実は昨晩、クリスティーナの精霊の力についてヴァレンスに話をしたのだ。普通ならば、自分の考えなんかバレたくないだろうし、気持ちが悪いと遠ざけられてもおかしくないのに、ヴァレンスは驚くほど冷静に受け入れてくれた。それどころか、 感情を言葉に表すのは苦手だし、表情筋も滅多に動かないから、勝手に読み取って貰えるのは非常に助かる……と、前のめりで言われた。
しかも、心の声までそのままだった。
(少しは気まずく思ったり、気持ちを取り繕おうとしてみたり、素手で私に触られるのを警戒するんじゃないかって思いきや、全然今まで通りだったんだよね。それどころか、心の声で会話してこようとさえするのよ。こんな人家族以外で初めて)
クリスティーナの精霊力についてほぼノーリアクションだったヴァレンスに、盗み聞いたミューゼオ侯爵と誰かさんとの会話のことを話せば、大激怒してクリスティーナの夜会出席の取り消しと、警備の見直しと増員を即決して、さらには心の声で口汚くミューゼオ侯爵を罵倒し、何十回も斬り捨てていた。それを聞いていたクリスティーナが気分を害し、「ヴァルの心の声が怖すぎる」と言えば、ヴァレンスは慌てて精神統一をし、ミューゼオ侯爵のことを考えから追い出していた。
そんなことができるのなら、クリスティーナを称賛する心の声も止められるだろうに、それは垂れ流しで気にならないらしい。
今回、夜会には出るなと言われたが、夜会でダンスすることで、ごく自然に触れることができるから、ミューゼオ侯爵の悪巧みを暴くのも、強力者を探し出すのも都合が良いんだとヴァレンスを言いくるめ、なんとか夜会欠席だけは取り下げてもらった。
その代わり……というわけではないが、精霊力を使うことで生じる弊害として、睡眠過多と少食のことも告げ、その弊害の唯一の
今まではクリスティーナの体力や身体を気遣って、泣く泣く我慢して数日に一回に留めていたが、これからは我慢しないで毎晩抱くと宣言されてしまった。
(いやいや、加減は必要だと思うよ)
そんなわけで、凄くスッキリ(私は眠気がなくなってという意味、ヴァルはそのまんまだろうな。欲求不満が解消されて……ってやつ)した状態で、クリスティーナとヴァレンスは夜会会場の扉をくぐったのだった。
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