第15話 侯爵令嬢のお茶会 2

 全く……くだらない。


 クリスティーナは彼女らに素手で触れてはいなかったが、考えていることなど手に取るようにわかった。

 カトリーナに取り入る為に耳障りの良いことを言っているだけで、誰も本心で会話していない。カトリーナも、それだけの権力が自分にあると誇示したいのだろう。


 側妃のクリスティーナよりも、自分の方が上だと。


 そんな中、カトリーナを賛美する話に入らなかったり、明らかに居心地の悪そうにしている令嬢達に目を向けた。彼女達はまともな神経をしているようだと記憶に留める。


 他人の会話を聞いているだけで数分たった時、ガゼボ下のテントにいる令嬢達が騒がしくなり、皆立ち上がり頭を垂れた。


「ヴァレンス様!」


 カトリーナが嬉々として立ち上がり、小走りでガゼボから下りた。

 そちらに目を向けると、赤毛の美女をエスコートしたヴァレンスがこちらへ歩いてくるところだった。


 男女差はあれど、二人とも身長が高く似たような美男美女で、お互いがお互いの為に造られたかのようにお似合いだった。

 カトリーナはヴァレンスの前まで行ったが、ヴァレンスの腕に手を触れようとして振り払われていた。


 あの二人の中に入り込もうという精神、鋼級だなと感心するしかない。


「クリスティーナ、ここにいたか」


 ヴァレンスがガゼボに入ってくると、中にいた令嬢が皆立ち上がり礼をとった。座っているのはクリスティーナだけになる。


 立った方がいいかな?


 クリスティーナは立ち上がろうとしたが、ヴァレンスがその肩に手をかけて制した。


「この茶会は、クリスティーナが開いたのか?(全く、なんで俺がこんな茶番を……)」


 茶番?茶番ってなんだろう?


「いいえ、私は招待されたから来たんだけど」


 クリスティーナの返事に、アンナが目を吊り上げた。クール系美女の怒った顔はなかなか迫力がある。しかし、この表情も茶番のうちらしいということがヴァレンスの心の声からわかる。


「まぁ!誰がこの庭園を勝手に使う許可を出したっていうの?!ヴァレンス様、この庭園の管理は本宮にお住まいの妃が管轄する筈ですわよね?つまり、本宮にお住まいなのはクリスティーナ様。そのクリスティーナ様をクリスティーナ様の庭園に招待するとか、権利の横領としか思えませんわ」


 え?庭園の管理?そんな面倒なこと、優秀な庭師に任せきりで良いのでは?


 もちろん、庭園の管理がこういうお茶会やガーデンパーティーを主催することだとはわかっている。しかし、そんな面倒なことは他人任せでお願いしたい。


「そんな……、この庭園の管理はお父様が、ミューゼオ侯爵が代理で行っています。本宮についても、まだ正妃様がおられないのでその管理はミューゼオ侯爵に一任されているかと」


 本宮の管理?!そんなの無理無理!


「あら、確かに正妃様はまだいませんけれど、本宮には妃がお住まいでいらっしゃるじゃないですか。このお茶会を開催するにあたり、クリスティーナ様にお許しは得たのかしら?」

「でも、彼女は病弱で公務には携わらないと……」

「病弱でじゃないわよ。やる気がないだけ」


 この返答もどうかな……と思わなくもないが、病弱は否定した方が良いらしいから言っておく。


「(そうなんだよな、ティナにはなるべくぐうたら過ごして欲しいけど、ミューゼオ侯爵の権勢も削いでおきたいから、本宮の管理は取り戻しておきたいところだ)」


 なるほど、それで忙しいヴァレンスがわざわざお茶会になど顔を出したのか。第一側妃のアンナを連れてきたのは、カトリーナの牽制の為だろうか?


「でも、クリスティーナ様はほとんど部屋から出ないと聞きました。そんな方に本宮の管理は難しいでしょう。私ならば、父から任されて庭園の管理をしておりましたし、本宮の管理も合わせて問題なくできますわ」

「ただの侯爵令嬢が本宮の管理?もしかして、ヴァレンス様の正妃面していらっしゃる?しつこく婚約の打診をなさっているようですが、毎回断られていますよね」

「な……」


 アンナはカトリーナを見下したような表情を作り、カトリーナは令嬢達の前で婚約の打診を断られ続けていることを暴露されて、顔を真っ赤にさせて震えた。

 これではアンナが最近小説で流行りの悪役令嬢ではないか。見た目的には凄く似合うが、カトリーナも同じく悪役令嬢っぽいから、悪役令嬢同士の小競り合いのようにしか見えない。


「(こいつ、嫌味な役がマジで似合うな。本当はサバサバして男みたいな奴なんだけど)」


 ヴァレンスのイメージするアンナはまさに男勝りで、ドレスを着てお淑やかに微笑んでいるよりも、剣を片手に戦場を駆け抜けているような逞しい女性だった。周りには第一側妃であるアンナを溺愛しているように思われているが、それも女避けの為に装っているだけで、お互いに戦友や同士のような関係のようだった。


 二人がバチバチしているのを見て、クリスティーナは小さくため息をついた。


 ぐうたらはしたいけれど、周りに迷惑をかけたい訳じゃないし、最低限の役割は果たすべきだということは理解している。

 やりたいかやりたくないかと聞かれれば、全身全霊でやりたくない。できる限り楽してぐうたらしていたい。そんなクリスティーナが王女だった時にぐうたらしつつ役目を果たす為にしていたこと、それは優秀な側近をゲットすることだった。


 クリスティーナが目をつけたのは、カトリーナの話に乗らなかった令嬢達だ。


「ヴァル……ヴァレンス、ちょっと離して」


 肩に手を置かれていたから、立ち上がるのに邪魔で言っただけだったのだが、周りの令嬢達にギョッとしてクリスティーナに注目された。


 え? ダメだった?

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