第14話 侯爵令嬢のお茶会

 晴れ渡る青空、気温はグングンと上がり、お茶会日和……というには殺人的な暑さだった。


「クリスティーナ様、本当にご参加されるんですか?」

「まぁね。やっぱり庭園茶会なのよね?場所の変更はないの?」

「今のところ、連絡は来ておりませんね」


 いくら日除けのテントが張ってあるとはいえ、こんな暑さの中数時間も表に出ていれば、倒れる令嬢が続出するんじゃないだろうか?軽食やお菓子の衛生面も気になってくるところだ。


 カトリーナが、お茶会の場所に指定したのは、本宮の真裏にある元アーツ王妃の庭園、別名薔薇の迷宮と呼ばれる場所で、正妃がいない今は宰相がそこの管理を行っていた。つまり、カトリーナの父ミューゼオ侯爵が好きにできた為、カトリーナは正妃気取りで頻繁に庭園茶会を開いていたのだ。

 今までそれを放置してしまったのは、ヴァレンスがカトリーナに関わり合いたくなかったのと、茶会などに興味がなかっただけで、別に黙認してきたという訳じゃなかった。


 今回のお茶会にクリスティーナが参加すれば、本宮の庭園を支配しているのは自分だとクリスティーナにマウントをとることができるし、参加しなければ、クリスティーナは病弱で側妃としては役立たずだとレッテルを貼れる好機だとカトリーナ及びミューゼオ侯爵は考えたのだろう。


 茶会には、高位貴族令嬢達が厳選されて呼ばれているようで、今回側妃で招待を受けたのはクリスティーナだけだったようだ。


「クリスティーナ様、御髪が整いました」

「ありがとう」


 今日のクリスティーナは、元気さをアピールするような宝石が散りばめられた目が覚めるような青いドレスを着て、プラチナブロンドの髪は緩く編み込んで右側に垂らし、髪飾りの代わりに青い小花を散らした髪型をしていた。お化粧はいわゆるすっぴんメイクで、可憐さがアピールされている。妖精姫の愛称が似合う見た目に、クリスティーナは苦笑いしか出ない。

 見た目は童顔で十代にしか見えないが、二十二歳という良い年なのだ。ヴァレンスが婚姻を申し込んでくれなかったら行き遅れも良いところで、妖精姫なんて可愛らしいものじゃない。何より、そんな儚いものに例えられるような性格をしていない。

 ヴァレンスも、クリスティーナの見た目だけに惹かれているのかも知れず、そう思うと胸がツキリとする。毎晩お茶を一緒に飲むうちに、多少情が湧いたのか……、自分でもよくわからない胸の痛みだった。


 支度の終わったクリスティーナは、リリアンがさした日傘に入りながら会場である薔薇の迷宮へ向かった。ここは薔薇の生け垣で迷路が作られており、会場はその迷路の中央にある広場で行われるらしかった。中央にあるガゼボには、六人座れるように席がセッティングしてあり、すでに見晴らしのよい正面の席にはカトリーナが座り、その周りには取り巻きの令嬢が陣取っていた。

 ガゼボの周りにはテントが二つあり、十人くらいづつ座れるようにだいテーブルを囲うように椅子が並べられており、令嬢達はほとんどが着席していた。


「まぁ! クリスティーナ様お身体の具合は大丈夫ですか? てっきり欠席なさるかと思っておりましたのよ」


 クリスティーナの姿を見つけたカトリーナと思われる令嬢が、立ち上がってクリスティーナの方へ歩いてきた。

 オレンジブラウンの髪色に同色の瞳のカトリーナは、目、鼻、口と全てのパーツがはっきりとしていて、パッと見派手な印象を受けた。美人と言えば美人なんだろうが、顔面がやかましいように感じるのは、クリスティーナだけだろうか?それに、キンキンと高い声がなんだか不快だった。


「具合が悪かったことは一度もないし、出席で返事を出した筈ですけど」


 クリスティーナはわざとらしくガゼボの中の席を見回す。そして、カトリーナが座っていた席に澄ました顔をして座った。


「まさか、私の席がないとは思わなかったわ」

「そんなわけないじゃないですか。嫌ですわ。あなた、席を間違えていてよ。こちらがクリスティーナ様の席です」


 ガゼボの中でも、一番出口に近いところに座っていた令嬢を追い出し、カトリーナはクリスティーナに席を示した。いわゆる末席だ。


「わざわざ席を替わるのも面倒なんで、そっちはあなたがどうぞ。ちょっと、紅茶を新しくしてね」

「は?」


 クリスティーナが侍女に紅茶を替えるように指示し、知らん顔をして席に居座った。カトリーナは、ムスッとして末席につく。

 それでも茶会は、見事にカトリーナの会話を中心に動き出した。クリスティーナはそれに焦ることもなく、紅茶を飲みながら周りの様子を伺う。カトリーナは女王のように振る舞い、周りはカトリーナを褒め称えていた。


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