第4話 ヌー王家の力 2

「じゃあ、私の婚姻相手は誰になるの?私は全然行き遅れたままヌー国に骨を埋めてもかまわないんだけど」

「とりあえず、いまだに近隣の情勢は安定しないからなんとも」

「お兄様の未来視の力でもわからないの?」

「僕のは、枝分かれする沢山ある未来が視えるだけだからね。確定した未来なんかないんだよ」


 兄王がクリスティーナの頭に触れた。それにより、視えてくる未来は確かに多種多様あるようで、どの未来が選ばれるのかは、神のみぞ知るということだろうか。


 それは未来視と言えるのかと、クリスティーナは首を傾げざるを得ない。沢山ある選択肢の中から、より良いものを選べるのかもしれないが、それも確定未来ではないのだから、どうせなら視えない方が気が楽なんじゃないかと思わなくもなかった。


「お兄様、私の力を勝手に使わないでくださいな」


 クリスティーナは、兄王の手を払い除けた。


「悪い、悪い、話すよりも早いと思ってね」


 クリスティーナの精霊力は、触れた人間の考えがわかること。ただし、触れなければわからないし、布などを介したらわからない。昔の王族ならば、目を向けるだけで相手の思考がわかったというから、なんとも鬱陶しい能力だったことだろう。

 クリスティーナは手袋をすることで、この面倒臭い力をなるべく発動させないようにしてきた。他人の考えなんか、知らない方が幸せなのだ。


「都合良く使わないでくださいね。現状はわかりましたけれど、私ももうすぐ十八ですからね。妖精姫なんて呼ばれていますが、あと数年でただの行き遅れの無駄飯食い決定です。私はそれで良いのですが、王妹の義務くらいは果たさないといけないことくらいは理解しています」

「よくできた妹で嬉しいよ」


 兄王は、一見儚げでか弱そうに見える妹が、実は大雑把でぐうたらする為にか弱さを演出しているのを知っていた。ある意味大物なのだろうが、基本ぐうたらに命をかけているから、婚姻を結んだ後にヌー国の為に画策しともらおうなどとは考えていなかった。それは、亡くなった父王も同様だっただろう。とりあえずは、政略結婚して縁を結んでくれれば上出来で、クリスティーナもそれはよく理解していた。


「まあ、なるべく妃には興味なさげな方、もしくは溺愛する妃がいて、白い婚姻希望みたいな旦那様だとありがたいですね。なんなら、よぼよぼのおじい様も可です」

「希望にそえるようにはしたいと思っているよ」


 この時兄王が視た未来の中に、元婚約者と同じ黒髪青い目、浅黒い肌でありながら、精悍な……というか、冷徹で厳しい表情をした若者がクリスティーナの手を取っている映像もあったのだが、数多くある戦の凄惨な映像に埋もれてしまっていた。


 それから五年、クリスティーナは二十二歳になり、妖精姫の名はそのままに、すでに行き遅れ確定の年齢になっていた。


 今、アーツ国は存在していない。


 アーツ国の血塗られた継承権争いの末、第五王子であったヴァレンスが兄弟を皆殺しにして王位についたのは、クリスティーナの元婚約者が身罷ってすぐのことだった。その後、アーツ国が疲弊している隙を狙って攻めてきた隣国のカヌイレ国シャーレ国と休む間もなく戦争になり、二年半の戦争の末にアーツ国が完全勝利し、この三国を統合してアーツ国改めレキシントン帝国が建国された。もちろん初代皇帝はヴァレンス・アーツ・レキシントン。

 そしてその後、アーツ国と親戚国(王妃が元アーツ国王の妹)であるサンドレア国が平和裏にレキシントン帝国の領地下に入り、自治を認められると、近隣諸国もレキシントン帝国の領地下に入った。


 数年で大帝国に成り上がったレキシントン帝国初代皇帝ヴァレンスは、冷徹無慈悲な皇帝として、帝国全土に名を轟かせ、そしてヌー国もある決断をすることとなった。

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