第5章 ごめんね 第3話 戻りたい

 あれから数十年。


 茜は仕事を辞めて日本で暮らしていた。帰って来たそうそう裕也を探したが、以前住んでいたアパートには居なく、消息不明であった。

 

 裕也が居なくなって初めて自分の人生の選択が間違いだった事に気づいた。


 (私は裕也が居たから私らしく生きていたんだわ・・・裕也に会いたい!!どうしたら会えるのかしら?!裕也の居所は全て探したけど見つからなかった・・・)


 茜はお守りにしていたモノがあった。小さな巾着袋に入ったカプセルだ。イギリスのとある店で購入したモノである。説明書には『愛されたいと思ったら飲むと願いが叶う薬』と記してあった。


 (願いが叶うなら・・・)


 茜はわらをもすがる思いでカプセルを口にした。

 すると茜は見る見るうちに数十年前別れた若かれし頃の裕也に変わっていった。そして茜の記憶も消え失せていき・・・


 若かれし頃の裕也は大きな屋敷の前にいた。


 「お坊ちゃん。おかえりなさいませ。お父様がお待ちかねですよ。」


 ひつじらしき男性に案内されて屋敷の奥へと入って行った。


 そこには年老いた裕也が笑みを浮かべて佇んでいた。


 そうだ、今の裕也が愛しているのは自分の息子だった。


 息子に変した茜が年老いた裕也を見た途端、消え失せていた記憶が不思議と戻り始めたのだ。


 「裕也・・・。」


 茜の体は元通り・・・十数年だった初老の女性の姿になった。


 「茜・・・。」


 裕也と茜の遠回りした人生の再出発が始まった。

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愛される媚薬 由比ヶ浜崇子 @mirai-ayumu

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