第6話 宝探し

花火の翌朝、みんなが食堂に集まってきた。

僕は昨夜撮ったみんなの写真を、プリントしてみんなに見せた。

「わぁ、迅兄ちゃん。写真凄くうまいね。この想太と奏がすごくエモい!!」


桜ちゃんが想太君と奏ちゃんのツーショットを見てニヤニヤしている。

そこには想太君と奏ちゃんが並んで線香花火をしている二人が写っている。あまりにも甘酸っぱくてかわいかったので思わずシャッターを切ってしまった写真だった。

「この星の写真、すっごい素敵!!この写真欲しいなぁ。」

今度は奏ちゃんが僕の星の写真を見てうっとりしている。

「この写真も、そして想太君との写真も奏ちゃんに上げるよ。

みんな、写ってる写真とか、欲しい写真があったら言ってくれ。プリントするから。」

「やったぁ。」

みんなワイワイと、楽しそうに写真を見ている中、健太だけ眠たそうなボーとした顔をしている。

「あれ?健太。もしかして怖い話で眠れなくなった?」

桜ちゃんに言われている。健太君は、ギョッとした顔をした。

「そんなことあるわけないだろ!!…でも昨日の2時ごろ俺見ちゃったんだよ。」

健太君はさらに青い顔をして言った。

「何を見たんだ?」紫音が聞いた。

「笑うなよ。…絶対笑うなよ。…火の玉。」

最後のほうは小さな声で囁くような声だった。

「こいつ、2時ごろにトイレに起きたんだって。で、ベッドに戻る前に森に光るものが見えたから気になってみたら、ゆらゆらしたり消えたりしていたらしくて、火の玉が見えたって言い出したんだ。僕も起こされてみたんだけど、光なんか見えなかったし、蛍とかじゃないの?って僕はそのまま寝ちゃったんだけどね。」

想太君が暴露してしまった。

「想太…お前ぇ。」

「へぇ、で健太はその後怖くて眠れなくなっちゃったんだぁ。」

「桜、あんまりからかったら可哀そうだよ。」

奏ちゃんもちょっと笑いながら桜ちゃんを窘めている。

「だから、笑うなって言ったのに。それに、蛍にしては光が大きかったんだって。蛍なんて小さくて点のような光じゃんか。そうじゃなくて、本当に火の玉ぐらいの大きさだったんだってば。」

健太君は、少しむくれた顔でみんなに言った。


「そうか、そうか。じゃ、森に入ってその光の正体を探しに行ってみようか。ついでに森の恵みを少しいただきに行こうよ。」

「それ、いいね。紫音。

雪さん。僕たちと一緒なんで彼らと森の探検に行ってもいいですか?」

「そうですね。紫音さんと迅さんが一緒なら大丈夫でしょう。

道はこの子たちがよく知っていると思うので、きいてくださいな。

一応、クマよけと虫よけなどの装備をご用意しておきますね。

あなた達も、長袖と長ズボンに履き替えておきなさいね。」

「でも、昼間に行ったってわかんないんじゃないの?」

健太君が至極もっともなことを言う。

「確かにね、でもそれが人間の仕業で何かしらの目的があって夜の森に入ったんだとしたら、昼間のほうが安全だし、痕跡を見つけやすいんじゃない?まぁ、宝探しだよ。」

「あ、それって、紫音さんも俺の事信じてないじゃん!!」

「・・・笑。そんなことないって。」

健太君が膨れて怒ってる。紫音は笑っている。


そう、僕たちはこの時、まさか森であんなことが起こるとは思ってなかった。


僕たちは雪さんが用意してくれたお昼のサンドイッチをもってみんなで森の散策に出かけた。

六花荘を出る前に舞ちゃんと常田夫妻に出くわした。

「みなさんでどちらかにお出かけですか?」

常田さんが僕らに声をかけてきた。

「はい、昨晩火の玉を見たという証言があったので、それを確かめに行こうかと。」

紫音が答えた。常田さんは、すこしぎょっとした顔をした。

「・・・?どうかしました?顔色が悪いようですが?」

僕が言うと、

「あ、いえ。…あはは。極端な怖がりなもんで…。火の玉なんて言われるからぎょっとしちゃうじゃないですか。」

「あはは、まぁここだけの話、子供の見間違いだと思いますけどね。」

「なるほどなるほど。では気を付けて」

常田さんはから笑いをしながら向うに行ってしまった。


「迅さん。聞こえてるんだけど。」

僕のほうを健太が睨みつけながら、言った。

「あ、ごめんごめん。」


みんなで森に入って桜ちゃんと健太君の案内で、木の実があるところを教えてもらった。

ヤマモモ、アケビなんかが結構取れて、ザクロなんかもあった。

森にはいろんな恵みがあって、自然が豊かっていうのは幸せなことだなぁと改めて思う。

「山の物を収穫するときは、全部取り切っちゃダメなんだ。山の神様と、山に住む動物たちの分をとってしまうと、あとで神様や動物たちに怒られちゃうんだよ。

だから、自分たちが必要な分だけ戴いていくの。」

桜ちゃんがアケビをもぎりながら僕等に言った。

「へぇ。桜ちゃんたちは、誰からその話を聞いたの?」

「お母さんとお父さんだよ。この辺の人はみんなそういうよ。」

「そっか。山の恵みが豊富なのもあるだろうけど、この辺の人は自然ときちんと共存しているんだね。

熊の被害が少ないのはそれもあるのかもしれないね。」


「健太君。どのへんでその火の玉が光っていたのかな?」

紫音が健太君と火の玉の位置を確認している。

「僕らが泊まっている部屋があそこだから、大体あの藪のあたりなんだよね。

こうゆらゆら~って感じで点いたり消えたりして。トイレに起きたのが2時ごろだったから、ちょうど丑三つ時だなぁ、とか思ってたら、そんなもの見ちゃったからビビったよ。

大きさは大体バレーボールぐらいかなぁ。」

「そっかぁ。それって、この藪の中から光っている感じだったのかな。」

「うん、そうだよ。藪の中で光ってて光が見えたり消えたるしてたんだ。」

健太君がそういうと、紫音がおもむろにそのやぶの中に入っていった。

「おい、紫音。大丈夫か?」

「あぁ、みんなはちょっと待ってて。俺見てくるわ。入ってくると危ないから迅とみんなはそこで待機!!」

そういうとスタスタと藪の中に入っていく。

しばらく待っていると、紫音が僕を呼んだ。

「みんなはそのまま待ってて。迅。ちょっとこっちに来れるか?」

「わかった。」

呼ばれて僕は藪の中に入っていった。

藪は鬱蒼としているが、少し前に人か、獣が通ったような獣道のようなものができている。

これは、紫音が通ったより前にできている感じだ。

藪を通り抜け紫音の所まで来ると、紫音が僕に足元を指さして言った。

「この辺の土だけ、一度掘り起こしたようになってるんだ。」

「獣か何かか?」

「いや、俺以外の足跡があるから、たぶん人間の仕業かな。」

「なんだろ?何か気味が悪いな。」

「たぶん、健太が見た光ってのはこれを埋めるときの懐中電灯の光だろう。遠目に観たから火の玉に見えたのかもしれない。」

「これ、掘り起こしてみる?」

「うん、そうだな。とりあえず一度、六花荘に戻って道具をとってこよう。」

紫音がそういって、子供たちが待っている藪の外へ戻った。


「紫音兄ちゃん…たすけて。」

子供たちが固まって震えている。

その前には、ナイフを持った常田がいた。

僕ら二人には背中を向けた位置にいた。

「おい、何をしている!」

紫音が声をかけると、常田が驚いて、こちらを向いて言った。

「見つけたのか?あれを見つけたんだよな。」

「なんのことを言っているんだ?」

「昨日の晩、ここに隠したんだ。せっかく隠したのに、お前たちが見つけやがった。俺は殺してないし、ただ怖くて逃げただけなんだ。

なのに、あの金庫には血痕が残っているし、お荷物までしょい込むし。

お前たちさえ、口を封じれば俺は逃げ切れるかもしれないんだ。だから。」

常田はほぼ泣きながら、俺たちに叫んで、ナイフを振り回している。

「いったい何を言ってるんだ?とりあえず、いったん落ち着いて話を聞こうじゃないか。」

紫音がなだめながらじりじりと常田に近づいていく。


僕も空手の有段者でもあるから腕には少し自信があるし、紫音もなかなかの武闘派ではある。

だが、見るからにナイフなんか普段使いなれていないような動きをする常田。逆にそういう人のほうが、危なっかしい。しかも、かなり切羽詰まった感じで、動きが読めないのだ。

取り押さえる自信はあったが、下手に動いて子供たちや常田に怪我があっても大変だから、ここは慎重に対処しないといけない。

紫音と視線を合わせて常田との間合いを取っていると、突然、

「わー!!」と健太君が飛び出して常田に飛びついた。

僕はあっけにとられてしまったが、紫音は反応が早かった。

健太が常田の足を羽交い絞めにしている間に、紫音が常田のナイフを持った腕をつかみ、ナイフを振り落とした。

僕はそのナイフを拾い上げ、奪い取った。


「健太!!ナイス!いいタックルだった。でも、びっくりしたぞ。怪我無いか?」

紫音は健太君の頭をガシガシと少し乱暴に撫でて、言った。

「うん。俺カッコよかった?」

「かっこよかった?じゃないわよ!!びっくりしちゃったじゃない!もし怪我なんかしたらどうするのよ!!何カッコつけてんのよ!あんたはヒーロー気取りでいいかもしんないけど、刺されたらどうしようって…こっちは…うわーん。」

桜ちゃんが顔を真っ赤にして怒ったかと思ったら、号泣してしまった。

「桜ちゃん、健太の事が心配だったんだね。健太。桜ちゃんにきちんと謝れよ。」

僕も少しお説教をと思っていたが、桜ちゃんが全部言ってくれたのでお説教はやめておくことにした。僕に言われた健太君は素直に、桜ちゃんに本当に申し訳ないような顔で、

「ごめん。悪かった。桜。心配してくれてありがと。」と頭を下げた。


「さて、常田さん。何があったんですか?話を聞かせてもらえませんか。そもそも、その藪の中に何を隠したんですか?」

その場にへなへなと座り込んで項垂れている常田に紫音が話しかけた。

「・・・金庫なんだ。」

「金庫?なぜ金庫を隠してるんですか?あなたたちはいったい誰なんですか?順序だてて説明してもらってもいいですか?」

常田はうなだれたまま、僕たちにゆっくり話し出した。


「俺たちは、東京である婆さんのケアワーカーとしてその家に出入りしていた。その婆さんは少し認知症を発症していて、その日常の世話をしていたんだ。

3日前だった。俺たちがその家に行くと、中で騒がしい音がするんだ。

何かあるのかと玄関のドアを開けると男性の断末魔のような声が聞こえ何かが倒れるような音がした。

その後、和室に隣接している窓から金庫が飛んできた。

そんなに大きな金庫でもないし、俺たちは最初からこの金庫が狙いだった。それで、この金庫をもってそこから逃げたんだよ。」

その事件って今、岸くんが担当している殺人事件なんじゃないのかな。

話は続く。

「一昨日、休憩していたサービスエリアで見たニュースにその事件が出ていた。まさか、人が殺されたなんて知らなくて。

それで、金庫をよく見たら、血痕と人の髪の毛のようなものがついてて、怖くなってしまってとりあえず隠そうと思ったんだ。」

「で、昨晩夜中にこっそりと埋めに言ったわけなんですね。」

「・・・はい。」


これは大変なものを見つけてしまったようだ。

「迅。すぐに岸くんに連絡しよう。」

「あの…俺たちはやってないんです。あの殺された人も知らないですし、金庫を盗んだだけなんです。こんな物騒なことになるなら、あの家なんかに入らなかった。信じてください。俺たちはやってない」

「常田さん。それを判断するのは警察です。警察の知り合いに此れから連絡をするので、事情は少し話してみますが、俺たちでは何とも。」

僕はそういって岸くんに電話をした。


とりあえず、岸くんにはこちらの状況を説明した。

すると、岸くんが言った。

「その常田って容疑者に女の子が同行していないか?」

「舞ちゃんって5歳くらいの女の子が一緒にいるよ。」

「それ、殺された杉田の娘かもしれない。行方不明になってるんだ。とりあえず今からそっちに向かうから、その常田って家族を見張っていてくれ。あと、その金庫はこっちで掘るからそのままにしておいてくれ。」

「わかった。」

電話を切った後、僕たちは常田を連れて六花荘に戻った。

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