第4話 森の怪異(探偵団)

「夕食が終わったら、みんなで花火しようよ。」

紫音が子供たちに提案した。

僕らはここに来る前に花火をいっぱい買い込んだ。事前にオーナーの杉咲さんには許可をもらっているし、今日はなにより天気もいい。

六花荘があるここは、標高が高いので日が暮れると涼しい風も吹いて心地よくなる。

日が落ちれば空には満天の星。都会ではまず肉眼では見られない光景だ。きっと天の川や、星座なんかも確認できるはずだ。

僕は、今回その星空を写真に収めたくて、色々装備を整えてきていた。

「やったぁ。」

子供たちは大喜びだ。

「普段、私たちが宿の仕事で手が離せないので、この夏の花火はできないかもって話してたんですよ。紫音さんたちがついてくれるなら安心ですし、よろしくお願いします。

あ、そうだ!桜と奏ちゃんは浴衣着せてあげるよ。髪の毛も結ってあげる。」

雪さんがニコニコしながら二人を連れて行った。


「おい、想太。奏ちゃんの浴衣姿だって。」

「うん。」

「お前、顔がにやけてるぞ。」

「そういう健太だって、桜ちゃんの浴衣姿にドキドキするなよ。」

「いや、俺は別にさ。桜なんか…」

健太君が想太君の脇を肘でつついている。

「健太。おまえ、顔が赤いぞ。」

どうやら想太君は奏ちゃんの事が好きで健太君は桜ちゃんの事が好きらしい。思春期の男の子だな。甘酸っぱい初恋の顔だ。


常田さん家族も夕食を終えたらしく席を立った。

「ねぇ、舞ちゃんだっけ?いっしょに花火しない?」

健太君が舞ちゃんに声をかけるも、聞こえていないような感じで両親に着いて部屋に帰ってしまった。

「ちぃっ。何だよ。無視しなくてもいいじゃん。」

健太君が少しむくれている。

「まぁ、恥ずかしいんだよ。きっと。」

僕がそういうと、想太君がちょっと気になることを言った。

「あの舞ちゃんって子。なんか変なんだよね。」

「へんって?」

「うん、あのね。もしかしたら、舞ちゃん喋れないんじゃないかなって。全然声を聞いてないような気がする。聞こえてはいると思うんだけど。ほら、ショックとかで声が出なくなっちゃう人いるでしょ?そんなかんじ。

それに、着ている服とか持っているものが全部新品なの。いつも抱えているぬいぐるみだけ、だいぶ古くてボロボロなのに他の物は全部新品。靴も帽子も服も。で、サイズがなんかあってないような、慌てて買い揃えたって感じなんだよね。」

「想太君。すごい観察眼だね。」

紫音が目を丸くして想太君を褒めた。

「もう一つあって、なんか「舞ちゃん」ってお母さんとかに呼ばれてても反応が遅い気がするんだ。なんか、お父さんとお母さんもよそよそしいっていうか?」

「うん、そっか。想太君はそれが気になったんだね。すごいな。教えてくれてありがとう。それは気になるよね。

でも、よそのおうちの事だし、もし気になることあったら、桜ちゃんのお母さんとか、僕らに云ってくれるかな。」

僕がそういうと想太君は少し安心したような顔して頷いた。


確かに、あの家族は少し様子がおかしい。それについては紫音とも少し話をしていた。だが、僕らが立ち入ることでもないから、様子を注意してみておこうという話で落ち着いていた。


「みんなお待たせ~」

雪さんが二人を従えて食堂に戻ってきた。

「桜も奏ちゃんもすっごく可愛くなったわよ。」

浴衣に着替えた桜ちゃんと奏ちゃんが少し恥ずかしそうにしている。

桜ちゃんは白地に金魚の柄の明るい感じの浴衣で、奏ちゃんは紺地に艶やかな花火の柄の少し大人っぽい浴衣を着ている。

長い髪をアップにして、髪飾りもつけてもらってさっきまで走り回って遊んでいた彼女たちの雰囲気からかなり大人っぽい感じだ。

双子の男の子を見てみると、顔を真っ赤にして口を開けてポカンとしている。

「ほら、ポカンとしてないで、花火始めるぞ。」

紫音が想太君と健太君の肩をポンとたたいて、外に出た。

子供達も紫音の言葉を合図に外にとびたしていった。


花火は大量に買い込んできていた。派手なものから、静かなものまでさまざまたのしむことができた。

僕らも花火なんて久しぶりで、珍しくはしゃいで童心に帰ることができた。

手持ち花火に飽きた頃、少し派手目の打ち上げ花火をやると、みんな大喜びではしゃいでいる。やっぱり小学生なんだなー。

そんなみんなの姿を僕は最近ハマっているカメラでとっていた。すると、ファインダー越しに甘酸っぱい初恋を見つけてしまった。

なんか、昼間食べたヤマモモパイの様な味がした。

小学6年生の夏休み。ふと、自分はどうだったかなと懐かしくおもった。


「よし.これが最後かな?線香花火だ!」

紫音が皆んなに花火を配る。

「この線香花火はとっておきの線香花火だからな。玉が落ちるまでに願い事を10回唱える事が出来たらその願いはきっと叶うと言われてるんだ。」

「ふぅーん。何をお願いしようかなぁ。」

桜ちゃんが嬉しそうに火をつける。

奏ちゃんも、想太君、健太君も火をつけた。

「想太は何お願いするんだ?」

健太君が想太君を突いた。

想太君は奏ちゃんの顔をちらっと見ると奏ちゃんも想太君の顔を見ていたらしく、目があって2人が恥ずかしそうに下を向いてしまった。

「はぁーん。そういう事ね。」

健太君がニヤニヤしている。

「あー!終わっちゃったー。願い事は言えたけど、なんか線香花火ってちょっと寂しいなぁ。」

桜ちゃんが終わった花火を目の前に持ち上げて残念そうに言った。

「そうだね。なんか夏の終わりみたいだよね。夏はあっという間に終わってしまう。みんなは何をお願いしたんだろうね。」

そんなことを話しながら、空を見上げると,さすがに東京では見られないような満天の星空で、まさに星が降ってくるんじゃないだろうかという夜空だった。


花火が終わると、健太が「怪談話しようぜ」と言い出した。

「お?大丈夫か?夜一人でトイレいけるか?」

紫音が健太の頭をぐりぐりして言うと、

「大丈夫だよ!オレ、お化けなんて怖くないもん。」

と口をとがらせて言った。


「よし、じゃ。俺からいいか?とっておきの怖いやつ。」

健太が一番を切った。

「これはな。ある先生から聞いたんだ。先生も誰かから聞いた話で誰が体験したかってのはわからないんだけど。

うちの学校の話なんだけど、夜の11時ごろまで学校でテストの採点をしていた先生がいたんだって。採点も終わって、最終、戸締りをして帰ろうと、各階を見回っていたんだって。

で、理科室のあるA棟を懐中電灯だけで歩いていたら、後ろからヒタヒタと誰かがついてくる音がしたんだ。

気になって後ろを振り返ったら、誰もいない。暗闇だけがそこにある。

で、また歩き出すとヒタヒタと誰かがついてくるような気がする。

その先生は気味が悪くなって走って逃げたんだって。

で、うちの学校の靴箱の所って鏡があるだろ?その先生、鏡を見ちゃったんだって。そしたら、鏡から手が出てきて鏡に吸い込まれちゃったって。翌朝、その先生のかけてた眼鏡とスリッパが無造作に鏡の前に落ちていたんだってさ。」

健太がそう話を終えたら、奏ちゃんは半泣きの顔をしていた。

それを見た想太君が、そっと奏ちゃんの手を握ってるのを僕は見て、見てはならないものを見たかのような思いがした。

「奏。大丈夫よ。健太はいつも法螺ばっかりなんだから。」

桜ちゃんが健太君をげんこつで軽くたたいていった。

「怖い話ってのは、身近にある話だと自分の身に本当に降りかかるんじゃないかって思うから、身近であればあるほど、恐ろしさが増すようになっているんだよ。

俺がこれから話す話は、あまり身近ではない話をしよう。」

紫音が今度は話を始めた。

「そうだな。みんな6年生ということは、学校の授業で歴史の授業も始めっているよね。源平合戦ってのは知っているかな。

平安時代の終わりに源氏と平氏が本州の色んな所で戦った戦があるよね。最終的には源氏、源頼朝が平氏を倒して鎌倉幕府を立ち上げることになったけど、負けた平氏の残党はとても辛い末路を辿ることになるんだ。

残党たちは、命からがら各地に逃げるんだけど、その逃げた先で残党狩りにあって命を落としたり、無事に逃げ切れたとしても平氏を名乗ることができず、山の奥深くに集落を作ってひっそりと暮らすことを余儀なくされたんだ。

日本各地には平氏の落人たちの集落があるんだ。そんな集落には落人たちの無念を語り継ぐ話が多く残っていたりする。


この近くにも、池があったよな。

昔の戦は、肉弾戦の戦だから、自分の手柄を示す物ってのは殺した人の頸なんだよ。その頸は洗わないといけない。でも戦場で飲み水は貴重だ。さて、何処でその頸を洗うと思う?


そう、飲み水にならないような池の水で洗うんだよ。

もしかしたら、そこの池も武将の頸が現れた池かもしれないな。」

「そんな池とか落人の里っていろんなところにあるの?」

健太君がきいた。

「全国に点々とあるよ。まぁ、各地の伝説や説話を紐解いたら、歴史の様々な真実が見えてくる事が多いからね。」

「へぇ。歴史って授業でやるだけじゃわからない事いっぱいだなぁ。」

想太君が感心している。

「そうだよ、授業じゃとてもやりきれないぐらいの事柄がいっぱいなんだ。そりゃそうだよね。人類が文明を持ってからもう5000年は経っているんだから。授業でやれるのは大まかな流れになっちゃうよね。」

今度は僕が答えた。

「凄いや!歴史って。面白い!もっと勉強したい!」

4人の子供達が目をキラキラさせている。

それを紫音はニコニコ見ている。


紫音って歴史に興味あったんだなぁ。

また新たな発見をした。


「さぁ、もう遅くなったし、片付けよう。いい子達はもうおやすみの時間だぞ!」

紫音が声をかかけた。

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その夜だった。想太と健太は同じ部屋で寝ていた。

夜、2時ごろだった。健太は小をもよおし目を覚ました。

「昼間、ジュースを飲みすぎたかな。」

トイレを済ましてベッドに戻る途中、ふと外の様子が気になった。

想太と健太の部屋からは、森の様子が見える。

なにかちかちかと光るものが見えて、何だろうと思ってよく見てみた。

・・・蛍にしては光が大きいし、点いたり消えたりしてふわふわと漂っているようだった。


「・・・!!もしかして、火の玉!!」

怖くなった健太は想太を起こした。

「想太!!想太!!起きてくれ!!森に火の玉が…火の玉が…」

起こされた想太は寝ぼけた目をこすりながら、

「なに?健太。火の玉って?」

そういって起きてきた。


「…何にも見えないよ?

また、寝ぼけて見えもしない者見えたんじゃないの?さっきの紫音さんの話の影響だよ。大丈夫、何もないから。もう、起こさないでよ。」

想太は、呆れたように言ってまたベッドの中に潜り込んでしまった。


確かに、森の中の光はもう消えていなくなっていた。

(あの光…なんだったんだろう?確かに見えたんだけどな。)

健太はそう思って、ベッドにもう一度潜り込んだ。

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