第8話『グリッドとの再会』


 そんなことがあった翌日。俺たちはグリッドさんを探して冒険者ギルドへと向かう。


「お? お前ら、戻ってきてたのか」


 ギルド内に足を踏み入れると、その姿はすぐに見つかった。

 彼も俺たちの存在に気づいたらしく、窓際の席から立ち上がって手を振ってくれる。


「どうも、ご無沙汰してます」

「かたっ苦しい挨拶なんてやめろよ。ずいぶん早いお戻りだが、王都には無事にたどり着けたのか……ん?」


 俺たちを流し見ていた彼の目が、とある一点で止まる。その視線の先には、カナンさんの姿があった。


「お久しぶりです。グリッド。お元気そうですわね」

「……姫様、どうしてこちらへ?」


 笑顔のカナンさんに対し、グリッドさんは先程までのテンションが嘘のように声が沈んでいた。

 ……というか、この二人って知り合いなのかな。


「おっ、勇者候補さんたち、久しぶりだな」

「なんか女が増えてねぇか? 兄ちゃん、やるな」


 そんなことを考えていると、ギルド内の冒険者たちが声をかけてくる。


「あー……ここは人が多い。ちょっと場所を変えましょう」


 俺たち三人が顔を見合わせていると、グリッドさんは頭をかきながら言い、足早にギルドを出ていく。


「ねぇねぇ、あの人、二人の知り合い?」

「うん、この世界に来てすぐ、色々とお世話になったの」

「……カナンっちとも、知り合い?」

「みたいだね……わたしもよくわからないけど」


 いぶかしげな顔の希空のあに、朱音あかねさんがそう答える。

 ……俺も二人の関係性を計りかねたまま、その後に付き従ったのだった。




 やがてたどり着いたのは、グリッドさんが長期滞在しているという宿屋の一室だった。

 木製の簡易的なテーブルに四人で座り、一息つく。


「ここならいいか……それで、姫様はどうしてこちらへ?」


 グリッドさんは、もう一度同じ質問を投げかける。


「勇者様たちと、魔王封印の旅をしているのです」

「……ということは、この二人は真の勇者に?」

「それだけではありませんわ。こちらは聖女ノア様。お二人と同じ世界からいらっしゃったんですの」

「ど、どうもー、はじめましてー」


 希空が努めて明るく挨拶をするも、グリッドさんは驚きの表情のまま固まっていた。

 ややあって、本物か……とグリッドさんが呟き、その場をなんとも言えない空気が包み込む。


「あ、あのさ、グリッドさんとカナンさんは、知り合いなの?」


 そこで、俺は勇気を振り絞ってそう質問してみる。一瞬、空気が和らいだ気がした。


「ええ、グリッドはかつて、プレンティス騎士団で副団長をしていたのです」

「副団長?」


 俺と朱音さんの声が重なる。


「ずいぶん前の話だし、隠してるつもりはなかったんだが……まぁ、そういうこった」


 グリッドさんはどこかバツが悪そうに頭をかいた。

 なるほど。以前一緒に戦った際、やけに戦い慣れているとは思っていたけど……元騎士だというのならそれも納得だ。

 それに、副団長を経験しているのなら、俺たちのような新米の指導にも慣れていたのも頷ける。


「まぁ……俺のことはいい。それより、姫様まで引き連れて……本当に魔王封印を目指してるのか?」


 その言葉は俺と朱音さんに向けられていた。


「色々あって、真の勇者になっちゃったし……俺たちにやれることをやろうと思ってさ」

「ここまで役者が揃ったら、必然的にそうなるよな……」


 俺たちの顔をもう一度見渡してから、グリッドさんはガリガリと頭をかく。

 どうやら、あれは彼のクセのようだ。


「それで、わざわざ俺に会いに来たってことは、何か頼みたいことでもあるのか?」

「えっと、実は……」


 そこで、俺たちは西の大陸へ渡りたい旨をグリッドさんに伝えた。


「以前、船乗りの友人がいると言ってたし、よかったら紹介してもらえないかな」

「確かに、船を持つ友人がいるにはいるが……そんな話、よく覚えてたな」


 半ば呆れ顔で彼は言うも、会話ログがあるので、全部保存されてるんです……なんて言えなかった。


「……そうだな。一応、会わせるだけ会わせてやる。その後の交渉は自分たちでやるんだぞ」

「え、グリッドさんは同席してくれないの?」

「これから魔王のいる地に赴こうって連中が、交渉の一つもできなくてどうする。姫様も、交渉のために身分を明かすのは駄目ですからね」


 そう念を押したあと、グリッドさんはその場でメモを取り出し、羽ペンを走らせる。


「それは?」

「俺からの紹介状みたいなもんだ。日が落ちてから、冒険者ギルド直営の酒場に行きな。店の一番奥にあるカウンター席に、ロベルトって男を待たせておく」


 グリッドさんはそう言って、俺にメモを手渡してくれた。

 そこにはよくわからない文字が並べられていた。自動的に日本語にならないところからして、暗号のようなものなのかもしれない。


「わかりました。会いに行ってみます」

「おう、頑張れよ。勇者様」


 最後に俺の肩をポンと叩いて、グリッドさんは部屋を出ていった。


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