第24話『王様との謁見と、聖女召喚』
そんなことを考えながら歩くことしばし。やがて俺たちの前に、見事な装飾が施された扉が現れた。
扉の両脇には男女の騎士が立っていて、その警備の厳重さから、この奥が謁見の間なのだと理解する。
「これはカナン様、国王陛下にご用ですか?」
「ええ、すごい方々をお連れしましたの。お父様は今、お手すきかしら」
彼女はどこか嬉しそうに騎士たちに説明するも、彼らは顔を見合わせたあと、明らかに訝しげな視線を俺たちへ向けてくる。
「その……先程までは大臣様たちと魔物対策を話し合われておられましたが」
「あら、その魔物の件はもう片付きましたわ。わたくしと、このお二人の力添えで見事に撃退したのです」
カナンさんが誇らしげに言う一方で、騎士二人は再度俺たちを見る。
「……姫様を疑うわけではございませんが、謁見の間に入る前に、お二人の所持品を
そう言うが早いか、男女の騎士がそれぞれ俺と
……まぁ、突然やってきてすんなり王様に会えるはずがないよな。武器を持っていると疑われるのが普通だし。
「……大丈夫のようですね。失礼いたしました。それでは、どうぞ」
やがてボディチェックが終わり、騎士たちは道を開けてくれる。
続けて重厚な扉が開かれると、前方に巨大な玉座が見えた。
そこへ向けて一直線に延びる赤い絨毯の左右に、騎士たちがずらりと並んでいる。
……今からここに入っていくのか。めちゃくちゃ緊張するんだけど。
先頭を行くカナンさんに付き従いながら、謁見の間に足を踏み入れる。おのずと顔が下を向いていた。
「お父様! 今日は素晴らしい方をお連れし」
「姫よ、また城を抜け出しておったな!」
ある程度玉座に近づいたところでカナンさんが言葉を発するも、それを打ち消すような怒号が響き渡った。それこそ、ぴしゃーん! という雷のSEが同時に聞こえそうだった。
思わず顔を上げると、目の前のカナンさんは恐怖からか、耳の毛が逆立っている。
その奥では一人の男性が玉座から立ち上がり、怒りの形相を見せていた。あの人が国王陛下で間違いないようだ。
「あれほど騎士に任せておけと言ったものを! このわんぱく姫! おてんば!」
まるで俺たちのことなど見えていないかのように、国王陛下は姫を叱る。
姫と同じような形のケモミミが、怒りに任せてピコピコと動いていた。
立派な王冠に装束と、いかにもな風貌だが、そこに国王らしさは微塵もない。ただのカミナリ親父だった。
「……お父様! わたくしの話を聞いてくださいませ! 今日こそはすごい方々をお連れしたのです!」
響き渡る怒声にめげることなく、カナンさんはそう声を張り上げた。そして俺たちを指し示し、国王陛下へと紹介する。
「……なんじゃ、こやつらは」
「ど、どうも……」
鋭い視線で射抜かれ、俺たちは軽く頭を下げるのが精一杯だった。
国王陛下、ご機嫌麗しゅう……なんて、気の利いた言葉が出てくるはずもない。
「このお二人は、勇者候補様ですわ!」
「またか……以前も連れてきたではないか。あの時は酒場で出会った吟遊詩人であったが」
弾むような声でカナンさんが言うも、国王陛下は呆れた様子で玉座にどっかりと腰を下ろした。
「こ、今度は本物ですわ! わたくしを魔物から救ってくださったんですの!」
……もしかして、カナンさんが勇者候補を連れてくるのって、これが初めてじゃないのかな。
まぁ、勇者オタクな上に、めちゃくちゃ純粋そうだし。勇者と名乗る者と出会えば、ホイホイと連れてきてしまうのかもしれない。
「お前たちが勇者候補だというのなら、その証拠を見せてみろ」
「もちろんですわ!」
俺たちに向けられたはずの言葉に、カナンさんが語気を強めて反応する。
……なんか俺たち、親子喧嘩に巻き込まれているような気がしないでもない。
「さあ、お二人とも、目にもの見せてやってくださいまし!」
それから期待に満ちた目を向けられ、俺と橘さんは顔を見合わせる。
つまり合体しろ……ってことなのかな。
俺たちは無言で頷いて、その手を握る。直後に閃光が走り、合体スキルが発動した。
「おおっ……!?」
光の中から現れた異形な存在に、周囲の騎士たちが武器を手に俺たちを取り囲む。
俺は敵意がないことを示すため、持っていた
「騎士の皆様、お下がりください。証拠を見せろと言ったのはお父様ではありませんか」
ふふん、と得意げに鼻を鳴らしたあと、カナンさんは続ける。
「彼らはこの技を用い、王都を我が物顔で闊歩していたワイヴァーンたちを圧倒的な御力でなぎ倒してみせたのです。民だけでなく騎士まで救うその勇ましさは、まさにこの混沌の世に現れた一筋の希望の光……」
俺たちの隣に立った彼女は、両手を広げて熱く語る。
なんか色々誇張されている上に、後半ポエムっぽくなっている気がしないでもないけど。
「うーむ、しかしなぁ……」
落ち着きを取り戻した国王陛下は、顎に手を当てて何やら考え込む。
そこへ、どこからともなく一人の男性がやってきて、国王陛下に耳打ちをして去っていった。
「……なるほど。城下街では、白い鎧をまとった勇者の噂でもちきりらしい。姫の話、今回ばかりはあながち間違いではないかもしれん」
その直後、国王陛下は頷きながらそう口にする。その言葉を聞いたカナンさんは、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
◇
ようやく信用を勝ち取った俺たちは、合体を解いて国王陛下との謁見に挑む。
「……それで、お前たちはオルティス帝国から転送されてきたわけか」
「はい。そうじぇす」
隣にカナンさんがいてくれるとはいえ、俺たちは極度に緊張していた。噛み噛みだった。
「彼の国から近々勇者召喚を行うという通達は来ていたが、もうすでに勇者候補たちをこの世界に呼び出していたとはな」
「勝手ですわ。彼らは足並みを揃えるということができないのでしょうか」
「姫よ、そう言うでない。オルティスの民はその多くが人間原理主義者。総じて、我らが獣人を下に見ておる」
国王陛下がため息まじりに言う。
言われてみれば、オルティス帝国は皇帝もその配下の魔導士たちも、皆人間だった気がする。
ここプレンティス王国には、王宮にも様々な人種がいるというのに。
「こちらはまだ、聖女様を
腰に手を当てて、カナンさんがため息をつく。
国王陛下もそうだけど、ここの王族たち、すごく庶民的に感じるんだよな。そういうお国柄なのかもしれないけどさ。
「あ、あの、それじゃ、カナンさんは聖女召喚をしようとしていたの?」
「ええ。その儀式の最中に、先の魔物の群れがやってきましたの。それこそ、魔王が聖女召喚を邪魔しているとしか思えませんわ」
橘さんからの問いかけに、カナンさんが答える。遠くニラードの街で噂になるくらいだし、随分前から準備は進めていたのだろう。
「そうですわ。せっかくですし、お二人にも聖女召喚の場に立ち会っていただいたらどうでしょうか」
名案とばかりに言い、父親である国王陛下に視線を送る。
「立ち会いか……お前がいいのなら、わしとしては構わぬが」
「ありがとうございます! お二人に見られたほうが、わたくしもやる気が出ますし。勇者候補が近くにいらっしゃれば、聖女様もこの世界にやって来やすくなるはずですわ!」
よくわからない持論を展開しつつ、カナンさんは玉座へと近づいていく。
それから背もたれの裏を何やらいじると、地面が僅かに揺れたあと、床が動いて地下へ続く階段が現れた。
「聖女召喚の儀式はこの先で行われるのですわ。ささ、どうぞ」
満面の笑みのカナンさんに導かれるように、俺と橘さんは隠し階段を下っていく。
「これって……」
その先には、俺たちがかつて呼び出された時と同じような、巨大な魔法陣があった。
「ひょっとして、聖女も複数人の候補を呼び出したりするの?」
「いいえ、聖女召喚によって喚び出されるのは、基本一人です。その分、確実に勇者様とパートナー関係を結べる方が選ばれます」
たくさん呼び出したほうが可能性上がるのに……なんて一瞬考えるも、単純に複数人呼び出すための魔力量が足りないのだと気づいた。
帝国では魔導士たちが協力して召喚の儀式を行っていたのに対し、ここプレンティス王国では姫巫女のカナンさん一人の力で儀式を行うみたいだし。
「……それでは、まいります」
いつしか専用の衣装に着替えてきたカナンさんが、魔法陣の前にひざまずく。
そして胸の前で手を組んだ直後、彼女の周囲に淡い光の帯が無数に出現する。
やがてそれは足元へと収束し、複雑な魔法陣を紡ぎあげる。
その魔法陣は次第に広がりながら移動し、床に描かれていた魔法陣と重なる。その刹那、魔法陣はまったく別のものに変化した。
続いて魔法陣そのものが光を放ちはじめ、建物全体が揺れる。
思わず身をかがめた時、魔法陣が放つ光はますます大きくなり、ついには巨大な光の柱となって弾けた。
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