第23話『ケモミミ少女の正体』


 たちばなさんに説得されて、俺は自分たちの正体をケモミミ少女に明かすことにした。


「……こんな感じで、合体したり戻ったりできるんです。驚いたかもしれませんが」

「やはりトウヤ様は、伝説の勇者様だったのですね!」


 これまでの経緯を説明したあと、実際に目の前で合体スキルを発動してみせる。勇者オタクの彼女は驚くどころか、キラキラと瞳を輝かせていた。


「あの、さっきも話しましたが、俺たちはただの勇者候補で……しかも追放された身で……」

「候補であるなら、それはもう勇者様であることと同意義ですわ!」


 微妙に誤解されているようなので訂正するも、俺の言葉を遮るように彼女は黄色い声を上げる。

 ……これはもう、完全に勇者だと思われてるよなぁ。


「そうです。王都の危機を救っていただいたのですから、ぜひ王宮へお越しくださいませ!」

「え、王宮?」


 笑顔を崩さずに言う彼女に、俺と橘さんは声を重ねた。


「はい! 勇者様が来られたとなれば、お父様もきっと喜びます!」

「お父様?」


 再び俺たちの声が重なる。


「ちょっと待って。カナンさんって何者?」

「あら? 先日のカフェで、わたくしの身分についてお話しませんでしたっけ?」


 俺の問いかけに大きな瞳をパチクリさせるも、カフェでは勇者に関するマシンガントークを聞かされた記憶しかない。

 彼女は俺の名前を知っていたし、どこかのタイミングで自己紹介したのかもしれないけど……まったく頭に残っていなかった。


「それでは、改めて……わたくし、プレンティス王国第一王女 カナン・ウィル・プレンティスと申します。以後、お見知りおきを」


 そう自己紹介すると、彼女はこれまでとは明らかに違う雰囲気をまといながら、丁寧な所作で頭を下げた。

 王女様……言われてみれば、身につけている衣装も高そうだし、上流階級という感じがした。


「というわけですので、トウヤ様たちが王宮に来られることに何ら問題はないのです。ささ、参りましょう!」


 直後に手を取られ、俺と橘さんは困惑しながら顔を見合わせる。

 王女様ということは、その父親は国王ということだ。

 陰キャの俺たちが、国王陛下に謁見……想像しただけで胃が痛くなった。


「こ、ここは高木たかぎくんに代表で行ってもらえないかな……お、男の子だし」

「何をおっしゃいますか! 二人一緒でなければ、先程の技は発動できないのでしょう? それに二人で一人の勇者様だなんて前代未聞ですわ! ティック!」


 橘さんの願いを一蹴し、カナン姫は待機させていた魔獣を呼ぶ。

 どかどかと近づいてきた魔獣は、俺と橘さんの腕を咥えると、勢いよくその背中へと放り投げる。

 ……これは、もう逃げられそうにない。

 俺と橘さんはほとんど同時にため息をつき、王城へと向かう魔獣に身を任せたのだった。


 ◇


 ティックと呼ばれた魔獣の背に揺られ、俺たちは王宮へと到着した。

 そのままカナン姫に先導されながら、城の中を進んでいく。

 お姫様だと聞いた時は半信半疑だったけど、城門からここまで、全て顔パス。ここまでくると彼女の言葉を信じるしかなかった。


「あら姫様、お客様でございますか?」

「ええ、客間を使うかもしれませんから、用意しておいてもらえます?」

「かしこまりました」


 すれ違いざま、獣人族のメイドさんが深々と頭を下げる。

 不思議なことに、この城の中ですれ違うのは獣人族ばかりだった。


「あの……カナン様、質問よろしいでしょうか」


 赤い絨毯がどこまでも敷かれた長い廊下を進みながら、俺はおっかなびっくり声をかける。


「トウヤ様、今更かしこまらないでくださいませ。名前も呼び捨てで構いませんわ」

「いや、さすがにそれは悪いので……カナンさんと呼ばせてください」

「そうですか……残念です。それで、どうされました?」


 肩越しに俺を見て、先を促す。その仕草に合わせるように、金髪がふわりとなびいた。


「ずっと気になっていたんですが、カナンさんが乗っていたあの黒い竜や、俺たちを運んできた魔獣はいったい……?」

「ああ、黒竜の子はファニーで、魔獣の子はティック。どちらもわたくしの召喚獣ですわ」

「召喚獣……ということは、カナンさんは召喚士?」

「ショウカンシ……? いえ、わたくしは姫巫女ひめみこと呼ばれています」


 小首をかしげたあと、彼女はそんな言葉を返してくれた。


「この国には、あのような術を使える人がたくさんいるんですか?」

「いいえ。召喚術は王家の人間しか扱うことができない秘術とされています」


 ……なるほど。どうやらこの世界の召喚術は職業的なものじゃなく、特別な存在なのか。


「じゃ、じゃあ、ワイヴァーンに攻撃されたあの子は、やられちゃったの?」


 その時、橘さんがおずおずと会話に入ってきた。

 先程の戦いで、黒い竜は光の粒子となって消えてしまったし。それは俺も気になっていた。


「一時的にべなくなっているだけですわ。命に別状はありません」


 カナンさんはあっさりと言って、笑顔を見せてくる。獣人族だからなのか、ちらりと覗いた八重歯が印象的だった。


「そうなんだ。それなら安心だね」


 橘さんが安堵の声を漏らす一方、俺はわくわくしていた。

 王族にしか使役できないドラゴン……なかなかに胸踊る設定だ。

 俺たちの合体スキルの中にも『召喚術』の項目があったし、実績解除していけば、そのうち使えるようになるのかもしれない。

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