第25話『一方その頃、現代日本では』
彼らの通っていた高校の最寄り駅でビラ配りをする、一人の女生徒の姿があった。
青色のショートヘアに緑色の瞳をした彼女は
希空はクラスこそ透夜と違うものの、彼が一部の生徒とともに行方不明になったことは当然知っていた。
もちろん警察が動き、学校から透夜の自宅までくまなく捜査が行われたが、特に手がかりは見つけられず。謎の失踪事件として処理されてしまった。
希空も当初はSNSを使って情報提供を呼びかけたりもしたが、あることないこと勝手に書かれる状況に嫌気が差し、使うのをやめた。
最終的に希空がたどり着いた手段が、この駅前でのビラ配りだった。
「よろしくお願いしまーす!」
夕方になって駅の利用客が増える中、希空は情報提供を求めるビラを配り続ける。
古典的な方法だが、こんな地道な活動こそ実を結ぶ……希空はそう考えているのだ。
「何日か前、ニュースで取り上げられてたね。早く見つかるといいね」
「ありがとうございます!」
買い物帰りらしい初老の女性が、希空の差し出したビラを受け取ってくれた。
……けれど、その日希空の手を離れたビラは、その一枚だけだった。
早々にその日のビラ配りを諦めた希空は、近くの公園に足を運ぶ。
ここは幼い頃、透夜とよく遊んだ場所だった。
すでに夕方の五時を回っているせいか、彼女以外に人の姿はない。
「はー、だんだんビラ貰ってくれる人いなくなってきたー。いくら情報があふれる時代だからって、忘れ去られるの早すぎ! これはまずい。ガチでヤバい」
公園の中央に設置された円形のジャングルジムに登り、希空は空に向かって吐き捨てる。
それこそ、透夜たちの失踪事件が起きてから数日間はテレビもネットもその話題でもちきり。連日ニュースでも取り上げられ、どこからかぎつけてきたのか、希空のところにも記者がやってきた。
ところが、三日も経つと世間の関心は別のニュースへと移っていく。
芸能人の不倫や政治家の脱税といったありふれたニュースに、幼馴染の失踪事件が埋もれていってしまうのが、希空には耐えられなかった。
「あー、いかんいかん。あたしが暗くなってどーすんだ」
希空はわざとらしく頭を掻いたあと、プラプラと足を動かす。
学校帰りの希空は制服姿だったが、常日頃からスカートの下にスパッツを履いていることもあり、あまり気にしていないようだ。
「そういえば、小さい頃はここであいつを泥だらけにして遊んだなぁ」
やがて自然と目に入った砂場を見ながら、希空は呟く。
一緒に……ではなく、一方的に泥だらけにしているところが、二人の力関係を現していた。
「昔は従順……じゃない、あたしにベッタリだったのに。ゲームにハマってからは、一緒に遊んでもあたしじゃなく画面ばっかり見ちゃってさ」
誰にともなく言いながら、希空はスマホを取り出す。
透夜にはアプリを通じて何度もメッセージを送っているものの、ひとつとして既読はついていなかった。
「……これだけ連絡ないと、さすがの希空さんだって心折れるぞー。早く帰ってこい。ばかとーや」
最後は吐き捨てるように言って、希空はジャングルジムから飛び降りる。
そして彼女が着地すると同時、その足元に白く輝く魔法陣が出現した。
「……は? なにこれ」
それを見た希空は一瞬呆気にとられるが、すぐにその場から離れる。
「これはっ……とーやが読んでた漫画に出てくる魔法陣!? 見るからに怪しいし、捕まってなるものか!」
叫ぶように言い、希空は公園内を逃げ回る。
彼女は元々運動神経には自信があるのだが、その魔法陣はまるで影のように彼女について回る。
「ちょっと、ついてこないでよー! わぁぁーーっ!?」
そして最終的には、光を放つ魔法陣に飲み込まれ……希空はその世界から姿を消してしまったのだった。
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