41

 俺は闘技場までの道を、静かに歩いていた。

 聞こえるのは、自分の足音と外からの歓声のみ。


 今から俺は、人を殺す。

 もちろん、俺が手を下すわけじゃない。


 だが、まだ救えるはずの命を俺は見殺しにする。


 それから、ひたすら歩き続け、そこに辿り着いた。


「雲雀丘…」


 もうすでに立っている、倉瀬に目もくれず位置についた。


「始めようか」


 そうして、倉瀬の目を見て告げた。


 ♦︎


「始めようか」


 俺は雲雀丘と目が合った瞬間、今までに感じたことのない恐怖を感じた。

 圧も殺気も、何も感じないのにだ。


「っ…!!死ねっ!!」


 俺はその奇妙な感情を全て振り払って、一直線に雲雀丘に迫る。


「な〜んだ。そんな大したことないな…」

「———は…?」


 気づけば俺は地面に伏せていた。


 攻撃したはずなのに…

 どういうことだ…?


 なにも見えなかった…


「確かに強くはなったさ。白亜を倒すくらいにはな」

「……」

「でもな、そんな程度で俺を倒す…?舐めてんのか…?」


 この時に気づいた。

 今の俺じゃ、雲雀丘には到底及ばないと…


 もう、いいんじゃないか?

 

 他人の力を借りて、強くなった気がしていた。

 だが、本物の強者にはかなわない。


 いくら工夫をしたって、俺はいつまでたっても偽りの強者でしかない。


 そんな俺に生きてる意味はあるのだろうか?

 否、俺にはもう生きる理由がない。


 大切な人も守るべき人もいない。


「はは……」


 思わず乾いた笑いが出た。


 最後…いや、最期ぐらい夢見たっていいよな…?


 俺はポケットに入ってる薬の瓶を取り出し、蓋を開けると浴びるように中身を全て口に入れる。


 その瞬間、心臓が…身体が燃えるように熱くなった。

 そして、異様に身体が軽くなる。


 鼓動が高鳴っていくほどに、気づく。

 もう、俺は人間ではないと…


「やっぱ、そうなるよな〜……」


 雲雀丘の口ぶりからして、俺がこうなることを予見していたようだ。


 はは、笑えてくるな〜


「俺はどこまでいっても弱者だ……」


 ♦︎


 倉瀬が覚醒…いや、キメちゃった。


 今の倉瀬からは、ただただ異様な気持ち悪さだけしか残っていない。

 言ってしまえば、化け物になってしまったわけだ。


轟音滅破サウンドオブルイン


 ……!?


 いきなりとてつもない爆音とともに、大爆発が起きた。


「あはは……これは、ちょっと流石の俺でも予想外だわ…」


 遊ぶ余裕もないかもな…


 ま、倉瀬の最期ぐらい…真剣にやろうか。


「ふふ…ふふふ……ふははははははは!!!!!!!!!!!力が…力が湧いてくる!!あぁ……今ならなんでもできそうだぁ!!」


 狂ったように叫ぶ倉瀬。


 あんな姿を見てたら、今からこいつが死ぬとかどうでもよくなってきた。


「はは…面白くなってきたじゃねぇか…!!」

「死ねぇぇえええ…!!ひばりがおかぁぁぁあああ!!!!」


 楽しい楽しい戦いの開幕だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る