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 俺は今、最高に気分が高揚している。


 誰も彼もが、俺の力にひれ伏していく。

 もう、弱者じゃなくなったんだ!!


「ああ、御門さんに頼んで正解だったな」


 風の噂で聞いた。


『御門修斗に頼めば誰でも強くなれる』


 それを聞いた時、俺はこれしかないと考えた。


 そうと決まれば、俺は一目散に駆け出していたんだ。


『お願いします。俺を強くしてください』


 御門さんに出会った時に、俺はそう言った。


『強くなりたい?別にええけど…当たり前に代償はあるで?おも〜い代償がな…?』


 それは嘘を言ってるようには見えなかった。


 どんな代償か分からない。

 それでも俺は、強くなりたい…!


 そのためなら、悪魔にでも魂を売ってやる。

 そう覚悟を決めて、言った。


『上等です…!!』

『そうか…やったら、ついてこい。あはは!楽しなるぞ…!』


 そうしてついて行った先で、いろんな検査をされた。

 身体の中を隅から隅まで見られた。


 それから、一週間で薬が届いた。


『その薬は、倉瀬ちゃん専用のもんや。やから、他のやつに飲ましても意味はないで?あと、一日最大4錠までや。それ以上飲んだら、身体が耐えれんくて死ぬから気をつけや』


 それだけ言って、御門さんは去って行った。


「これのおかげで俺は、強くなれてる」


 やっと…やっと、強者になれた。


 これで、もう何も出来ない俺じゃない。

 何も出来ないまま失うのはもういやだ。


「次は…決勝か」


 もうここまで来たのか。

 長いようで短かったな…


 ここを突破すれば…雲雀丘、お前にリベンジ出来る…!!


 会場に出る直前に、俺は今日で4錠目となる薬を飲んだ。


「相手は、有栖川白亜か…」


 有栖川か…

 大物だな〜


 そんな大物を俺は今から潰す。


 アナウンスが流れ、入場を促される。

 入場すると、すでに有栖川がいた。


「あなた、何か変なオーラを纏ってるわね」


 俺を見るなり、そんなことを尋ねてくる。

 なかなか鋭いようだ。

 だが、バレるわけにはいかない。


「余計な話をするつもりはない」

「…そう」


 そうして、お互い静かになった。

 それから、決闘の笛が鳴り、幕が上がった。


「やっと、ここまで来た…」


 俺は決闘の幕開けと同時に、全身の筋肉が高揚感と共に張り詰め、力が漲っているのを感じた。


 この強さを手に入れたことで、すべてが変わる。雲雀丘へのリベンジ、その先にある勝利――それだけしか俺の頭の中にはない。


 有栖川は静かに構え、冷静な眼差しで俺を観察している。


 その美貌と異様なほどの静けさが、まるで嵐の前の静寂を思わせる。

 だが、俺には関係ない。


 前までなら恐れたかもしれないが、今の俺は違う。


 この、圧倒的な力が俺にはある。


 俺は、有栖川に向かって猛然と突進しながら、異能を発動させる。

 耳鳴りのように高まる音が俺の鼓動と共に、周囲の空気が震え始めた。


「これが、俺の力だ…!!!」


 手を振り下ろすと、拳と共に圧縮された音波が放たれ、有栖川の鏡に激突する。


「——!?」


 衝撃音が轟き、鏡面がヒビを入れ粉々に砕け散った。


 俺の異能は、薬によって進化した。

 音の振動と衝撃が敵を貫き、すべてを破壊する。


「どうだ…?諦める気にはなったか?」

「まさか…雲雀丘くんに追いつくためには、こんなとこでつまずいてなんていられないもの…」


 俺は有栖川の言葉に耳を疑った。


「雲雀丘だと…?」

「あら、知ってるの?」

「俺は…あいつを倒すためにここに立ってんだよ!!!」


 怒りに任せて、再び俺は拳を振り上げ、音の波動を有栖川に向かって放つ。


 だが、有栖川は鏡によって防ぐ。


「チッ…また鏡か!」


 いくら割っても、キリがない。


「そんな程度で雲雀丘くんに勝つ気なの…?」

「何が言いたい…!」

「あら、分からない?こう言ったのよ。あなたじゃ雲雀丘くんの足元にも及ばないわ」

「なんだと…?」


 俺の全身が、怒りで震えた。

 ここまで強くなったというのに、有栖川はまだ俺を侮るのか?


 俺は薬のおかげで、かつての弱さを克服したはずだ。


「そこまで言うんだったらいいよ。俺の全力を見せてやるよ…!!」


 何を焦ってるんだ、俺は…

 こんな弱者の戯言に耳を貸す必要なんてない。


 俺は強者だ…!!


共鳴破砕レゾナンスブレイク…!!!」


 俺の声と共に、拳から放たれた振動波が一気に周囲の空気を共鳴させ、圧倒的な破壊力で有栖川に向かって襲いかかる。

 振動の波動が地面を、会場を震わせる。


「っ……!?」


 有栖川は負けじと鏡を展開するが……


「悪いな。お前の鏡は効かねぇんだ」

「……私の負けね」


 そうして、共鳴破砕レゾナンスブレイクは全てを飲み込んだ。

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