33

 蓮が席を外して、僕は柊先輩と2人きりになった。


「これ以上…何も言わないで…!!」


 こんなに感情的になる彼女を見て、僕の言ったことは間違いじゃなかったことを確信した。


「僕はずっと1人でした。でも、蓮と出会って変わりました。初めて勝てないと思った相手ですからね」


 そうだ。

 僕は、ずっと孤独だった。


 ずっと1人でもいいと思っていたよ。

 でも、蓮と出会って、初めて敗北して分かったんだ。


 こうやって、人と戦うのがこんなにも楽しいってね。

 1人じゃ決して、気づかなかったこと。


「きっと、柊先輩も求めてるはずですよ。だって、僕たちが入った時に仕掛けてきましたよね?そう、あなたは本当は……戦いたいんですよね?」

「っ………!!」


 僕はずっと求めているよ。

 戦うことを。


 敵が増えれば増えるほどいい。

 だって、戦えるからね。


 強い敵が増えればその分、僕も強くなれる。

 そして、いずれ蓮に勝つ。

 そのために、あなたが必要だ。


「戦いましょう。下剋上です」

「………分かった」


 別に負けたって構わない。

 今の僕がどれくらいなのかを知りたいんだ。


「では、始めましょうか」


 下剋上はスマートバンドからお手軽申請ができる。

 十傲とする場合はほとんどが、ちゃんと会場が用意されるが、別に用意しなくたってできる。


 下剋上をするにあたって、場所はどこでも構わない。

 必要なのは、この戦いを監視する教師か十傲だけだ。


 じゃあ、十傲か教師がいないじゃないかって?

 それなら大丈夫。


「蓮、頼んだよ」

「え?俺??」


 蓮が見てくれるからね。


 ん?蓮は、教師じゃないって??

 ふふふ……


「俺、教師じゃないが???????」

「大丈夫だよ、蓮。君は十傲なんだから……」

「……は???????????????」


 今蓮の顔は…


( ・∇・)


 これである。


「あれ?見てない?」

「は????????????????????????????????????????」


 ?が多い。


 僕は順位表を開き、蓮に見せる。


「十位…?俺が…??」

「うん」


 あ、固まった。

 初めて見たよ。

 こんな蓮は。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!?!?!?!?!?!?!?!」


 あはは!!

 面白いな〜


「いいから、僕たちの下剋上を見てよ」

「いや、そんな場合じゃ……」

「……私の人形を壊したんだから……やって」

「あ、はい……」


 よし、これでできるね。

 うん、なんだか今日は調子がいいな〜


「え〜と……ルールとか知らん。最後まで立ってたやつの勝ちで」

「適当だな〜」

「黙れ」


 相変わらず、僕にだけ当たり強いね……

 泣いちゃおうかな…?


「はい、よ〜いドン!」


 あ、ぬるっと始まった。

 こんなに下剋上って緊張感のないものなの?


「…おいで、アリス」


 そう言って現れたのは、白い髪と紫の瞳を持つゴシックロリータ風の人形だ。

 どことなく不気味な雰囲気を感じる。


傀儡ノ舞踏マリオネットのぶとう、第一幕…」


 その言葉と同時に、人形…アリスは動き出した。


「……!」


 その動きは、本当に綺麗だった。

 軽やかに美しい足運びで、ダンスのように綺麗に舞っている。

 思わず、見惚れてしまって……


「………!?」


 はっ!

 危ない。

 危うく魅了されるところだった。


 それにしても、すごいな。

 全く隙がない。


 攻撃をいなしながら分析することにした。


 柊先輩自身を狙えばいいと思うだろうけど、彼女も全く隙がない。

 僕の持ち前のスピードで一気に詰めるか?


光の剣ライトセーバー!」


 とにかく、攻めなきゃ何も始まらないよね。


「耀光剣!」


 光を剣に集め、強力な一撃をアリスに放つ。

 光の刃は宙を切り裂き、まるで光の星が降るように煌めいていた。


「ん…避けて」


 その言葉に従うように、アリスはその一撃を軽やかに避け、まるで舞踏の一部のように動き続ける。


「……アリス、行くよ」


 アリスが瞬時に姿勢を低くし、周囲の空気が一変した。

 彼女の目が紫に輝き、まるで異なる力を感じさせる。


傀儡ノ舞踏マリオネットのぶとう、第二幕…」


 彼女の声が響くと同時に、周囲の影から無数の人形が現れ、僕に向かって突進してくる。


「くっ…!」


 思わず後退し、剣を振るって人形たちを切り裂く。

 しかし、彼女の操る人形は一つじゃない。

 次々と襲いかかる攻撃に、身をかわしながら対処するのが精一杯だ。


「はは!さすがは十傲だね…!!」


 つい笑みが溢れてしまう。

 それほどまでに僕は、この戦いを楽しんでいる。


 ああ、今ならできるかもしれない…


「光霊覚醒…!!」


 光霊覚醒の瞬間、僕の身体は光に包まれ、エネルギーが全身を駆け巡る。

 心臓の鼓動が速まり、視界が鮮明になっていく。


 この感覚…

 今なら使いこなせる…!!


「閃光…!!」


 一瞬で剣を構え、光の刃がさらに輝きを増す。

 強化された身体で、僕は一気にアリスに接近する。

 彼女の操る人形たちも次々と迫ってくるが、その動きはすでにゆっくりと感じる。


「閃光舞!!」


 剣を振り下ろすと、光の波が発生し、周囲の人形たちを一掃する。

 彼らはまるで切り裂かれたように崩れ落ち、僕はアリスに向かって突進する。


「あははは…!!」


 柊先輩の目が一瞬驚きに変わる。

 だけど、すぐ普段どうりに戻った。


傀儡ノ舞踏マリオネットのぶとう、第三幕…」


 その声と同時に、アリスは自らの動きを変え、次々と新たな人形を生み出す。

 人形たちはより速く、より賢く、そして数も増えていく。


「楽しいなぁ〜…こんな時間が続けばいいのにね?」


 柊先輩に問いかけたけど、無視されちゃった。

 集中してるみたい。


「守光!」


 周囲に光の壁を形成し、次々と襲いかかる人形の攻撃を防ぐ。

 防御しながら、アリスを狙う隙をうかがう。


「もう終わらせよう」


 僕が負ける未来が見えない。


「……ん」


 よかった。

 ちゃんと返事してくれたよ。


 僕は深く息を吸い込み、心を集中させる。

 光のエネルギーが全身を包み込み、さらに力を引き出す準備をする。


 今の僕ならできる…!


「光翼天翔!!」


 光の翼が僕の背から生え、次の瞬間、空へと舞い上がる。

 高度を取り、上空からの視点で人形たちを見下ろす。


 そして、剣を掲げ、光の刃を放つ。

 空中から放たれたその光は、まるで流れ星のように美しく、敵を正確に捉える。


傀儡ノ舞踏マリオネットのぶとう、終幕…」


 沢山いた人形たちは、アリスの元へ集結する。

 その人形たちを取り込んだアリスは……


「……!」


 それはもう、一人の少女であった。


 一瞬目があった瞬間、彼女は目の前にいた。


「ごきげんよう…」

「それは……予想外だなぁ〜…」


 そうして僕は、地面に叩きつけられた。



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