29

 俺は最近まで負けることなんてなかった。


 昔から俺は筋肉が付きやすい体質なこともあり、周りの奴らよりも力が強かった。

 さらに雷の異能と合わさった俺は、中学までは一度も負けることなんてなかった。


 相手が誰であろうと俺が勝つと、信じて疑わなかった。

 それは高校になっても変わらないと思っていた。

 雲雀丘蓮と言う化け物に出会うまでは……


 異能島に向かう船で初めて会った雲雀丘の印象は、弱そうだった。


 そんな、格下だと思っていた相手に馬鹿にされたことに腹が立った俺は、お灸を据えてやろうと軽い気持ちでだった。


 いつも通り、俺の圧倒的な力の前にひれ伏すはず……だった。

 でも、あいつは俺の攻撃をいとも容易く受け流して、反撃してきた。


 ここで、俺は人生で初めての敗北を経験した。

 そして、一度ならず二度も。


 試験の説明を受けた俺は、リベンジの絶好の機会だと思った。

 あの時負けたのは、ただの偶然だと自分に言い聞かせて。


 試験会場に着くなり、俺は雲雀丘を探した。

 それから、雲雀丘の跡をつけ、スタートを待った。


 今思えば、あいつは俺に気付いてたんじゃないか?

 気づいてないなら、なぜあいつはわざわざフィールドの端に移動した?


 分からねぇ…


 結局俺は、雲雀丘に手も足も出なかった。

 仮にも、倉瀬とか言うやつと二人がかりでもだ。


 偶然が二つも重なりゃそれはもう、必然だ。

 つまり、俺は完全に敗北した。


 その結果が3065位だ。

 この実力主義の学校で底辺の順位に、俺は焦った。

 今まで俺に媚を売ってた奴らも、俺より順位が高いことで見下してきやがった。


 だから、俺はそいつらを見返すために十傲に挑んだ。

 雲雀丘以外には負けるなんて、考えてなかった。

 雲雀丘が特別なんだと思っていた。


 だが、実際は惨敗。


 もともと雲雀丘によって折られかけていた心を、さらに圧倒的な実力差に追い打ちをかけられた。

 そう、俺は強くなどなかったんだ。


 それでも、やっぱり諦められねぇ。


 勝利が欲しい。

 そこらの有象無象から勝ち取った勝利なんかじゃねぇ。


 俺より強い、格上からの勝利が欲しい。

 俺はただひたすらに、勝利を欲している。


 だったら、雑魚を狩る必要なんてない。

 俺は、何度だって無謀な戦いをしてやる。


 順位?んなもん関係ねぇ。

 見下すんなら勝手にすればいい。

 そんな連中、俺の眼中にもねぇ。


 底辺から這い上がってやる。

 ああ、まさに主人公ってやつじゃないか?

 そうだ、俺はモブでもなんでもねぇ…


 俺は…俺様は、主人公だ…!

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