7

「あ〜……お前ら、クソめんどくせぇことすんな…」

「…!?」

「…はっ!?」


 そう言って、一人の男が現れた。


 あと二人も驚いていますけど、この人知ってるの?


「ただの喧嘩なら見逃したんだが…雲雀丘、お前が混ざるのはダメだ」

「………」


 俺の名前をご存知で…

 それに俺の実力を知っているかのような言い方だ。


 それにしても、読めない。

 この男が何を考え、何をしようとしているのか全く見えない。


 だが、一つ分かることはこの男は尋常じゃない程強い。

 戦うとするなら流石の俺も、もう一つの異能を使わざるを得ない。

 それでも、俺の方が強いがな!!


「もうすぐ島に着く。静かにしてろ」

「な、なぜあなたがここに…?」

「あ…?」


 倉瀬が遠慮気味に尋ねる。


 あの倉瀬が、下手に出ているだと…!?

 え…?

 この人、もしかしなくとも大物…?


「見りゃ分かるだろ。教師だ」

「「「え、えぇぇぇ!?!?!?!?」」」


 鮫島と倉瀬だけじゃなく、ギャラリーも皆、一斉に声を上げる。


 うるせぇ…

 

 俺はこの人が誰か知らないので、尋ねることにした。


「えっと…誰っすか…?」

「は!?お前知らねぇのかよ!?」


 鮫島がオーバーリアクション気味に言ってきた。


「いや、知らんて」

「この人は竜胆りんどうあらた。世界最強だぞ!!」


 世界…最強…?

 それは流石に大袈裟だろって思ったが、さっき感じ取ったオーラを考えればあながち間違いじゃないかも…


「えぇぇ!?!?!?」


 めちゃくちゃ大物じゃないですか!?


「そんな大層な称号はやめろ。俺は世界最強じゃねぇよ」


 謙遜…してるわけじゃなさそうだ。


「何を言ってるんすか!竜胆さん以上に強いやつなんているわけ——」

「いるぞ」

「え?」


 竜胆はそう言って俺を見た。


「目の前にいるじゃねぇか。本当の世界最強がな」


 周りが一斉に俺を見た。


「え?何??」

「こ、こいつが…本当の世界最強…?」


 鮫島が俺を見て信じられないと言った顔で見てくる。


 疑問に思うな。

 周知の事実だろ。


「こいつと戦ったが、竜胆さんには到底及ばなかった」


 お前は手加減っていう言葉を知らないのかと言おうとしたら、竜胆に先を越された。


「そりゃそうだろ。手抜いてたんだからな」


 見破られてますね。

 一体どこで俺の実力を知ったのやら…


 倉瀬はその言葉に反応したのか、俺に突っかかってきた。


「手を抜くだと…?だったら、本気でかかってきなよ。俺を弱いって言ったんだ、さぞお強いんだろ?」


 倉瀬が挑発じみたことを言ってきた。


 受けてもいいんだけどな〜…

 本気って言われても、結局もう一つの異能は使えないわけだから、本気ではないし。

 受けたとしても、メリットないし。


「パス」

「へ〜…逃げるんだ?」

「はい!逃げます!!」

「……」


 そんな目で見るなよ。

 逃げて悪いか??


「血気盛んなガキどもだなぁ…」


 遠い目をしている竜胆。


 この人、別に子供好きじゃないだろ。

 なんで教師になったんだ?


「戦いてぇなら島でやれ、ほら帰った帰った」


 そうして、解散ムードになった。


 竜胆にそう言われたら従うしかないのか、鮫島は俺に見向きもせずどっかに行った。

 倉瀬は俺を睨んでからどっかに行った。


 倉瀬に嫌われたな〜と思いながら、俺もどっかに行こうとした時に…


「雲雀丘」

「んぁ?」


 周りに誰も居なくなってから、不意に声をかけられた。


「お前はどこか我慢してるだろ?だから、助言しといてやる。めんどくせぇことに、力を持つ奴にはそれなりの責任が伴う。特に俺やお前はな」

「責任すか…?」

「ああ、責任だ。例えば、強い者は弱い者を守れだとか、社会のために役に立てだとかな」


 ああ、そんなことか。

 よく言われたな…


 あなたは持つべきものを持ったのだから、皆んなを守りなさいってな。


「だがな、気にすんな。弱いやつを守れだとか社会の役に立てなんか言う声は無視しろ。お前がやりたいことをしたらいい」

「やりたいこと…」


 やりたいことか…

 確かにある。


 だが、どこかで遠慮してた。

 もし、してしまえば……



 ——世界が変わる。


 いや、終わる。



「俺は止めねぇ。てか、やれ。お前がどんなことをするかは知らんが、世界にどんな影響を及ぼすか楽しみにしてる。手段は選ぶな、この学園を、この俺を踏み台にしてみろ」


 俺はを勝手にセーブしていた。

 やってはいけないことだと思い、閉じ込めていた。

 だが、竜胆に背中を押されたおかげでこの気持ちをこじ開けてしまった。


「はは…!」


 あんたがどう考えてるか知らないけど、この気持ちを解き放ったんだ。

 責任とってもらおうか!


「その顔は決まったな」

「ああ、俺はこの世界の悪役になってやるよ…!」


 こうして、俺の…いや、俺たちの最後の三年間が始まる。


「なあ白亜、俺の傀儡にはなってくれるなよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る